――山崎さんがチームワークを大切にされる際、どんな役割を?
とにかく声をかけまくっています(笑)。たとえば『エリザベート』でも、僕が演じたトートという役はひとりで出てひとりではけるので、ずっとひとりでいようと思えばいられるんですけど、あえて舞台袖に行ってキャストのみんなに声をかけたり、出番よりも早めに舞台袖に行ったり、みんなが稽古場で発声練習をしているところに顔を出したり、子役の子どもたちにも声をかけたり会話をして。チームで一緒にここに向かっているんだよね、と感じあって心を合わせられるように、コミュニケーションを大事にしたいと思っています。
20歳くらいまでは、ずっと最年少という立場だったこともあり、稽古場の緊張感が苦手だったんです。ミュージカルの現場というのは厳しい世界なので、表現すること以前に、まずその緊張感と闘わなければならなくて。
それが、僕が大好きな『ミス・サイゴン』の演出家ダレン・ヤップさんと出会って、これだ!と思いました。ダレンさんは、ご本人が役者でもあるので、役者が人前でパフォーマンスするということがどれだけ繊細でどれほど闘っているかということを考えてくださる方で、張り詰めた空気を一切つくらなくて、とにかくみんなが自由に、稽古場で裸になれる場所をつくってくれたんです。稽古場ではキャストとスタッフ、カンパニーのみんなでサークルになって「今日はこのシーンをみんなでつくっていこう」「みんなでこの目的に向かってやっていこう」と心を合わせてから、この役はなぜこのシーンにいるのかをみんなでディスカッションして、全員が納得したうえで作品をつくっていく。それは先輩も後輩も年齢も関係なく、みんなでつくっていくものだから、と。関わる人すべての心をちゃんと解放して、リラックスさせて、自由に表現していいんだよ、という場所をつくってから稽古を始める。自分が求めていたものはこれだと感じたんです。
いま後輩も増えてきたので、特に自分が主演を務めさせていただく作品のときはそういう稽古場にしたいなとすごく意識していますね。
――役柄やシーンによって発声も歌唱法もがらりと変えるのが山崎さんの役づくりの魅力であり、特徴のひとつですね。歌い方の幅広さの秘密は?
子どもの頃からミュージカルが好きだったから、やっぱり欲張りなんですかね(笑)。ミュージカルが好きと言っても、ジャンルが幅広くて。ちょっとクラシックな要素が必要な『オペラ座の怪人』や『レ・ミゼラブル』のような作品から、『レント』などのロック・ミュージカル、ポップス・ミュージカル、フレンチ・ポップスの『ロミオ&ジュリエット』のような作品も好きで、音楽のジャンルでいうと幅がものすごく広い。僕の場合は、子どものときから「全部出たい!」「なんでもやりたい!」みたいな(笑)。それにはクラシックの発声も必要ですし、ロックも歌えなくてはなりません。日本ではわりとクラシック寄りとポップス寄りの歌い方で分かれていて、僕はどっちもいきたいっていうのは子どもの頃からあったんです。音大に通っているときも、クラシックだけの声には絶対にならないと思いながら、先生の話を半分聞いて半分聞いていないみたいなところはあって(笑)、学校ではオペラを歌うけど、カラオケに行ったらロックを歌う。
作品の色や役のイメージとして、芝居でキャラクターとして喋るときに音色が変わるように、歌声も本来変わるべきだと僕は考えているので。
たとえば『エリザベート』の黄泉の帝王・トート役では、「黄泉の帝王ってどういう声だろう?」と考え、歴代の先輩方がやっていたのを観ていて、山口祐一郎さんの深く劇場全体を包み込むような低音のバリトン・ボイスが「やっぱり帝王といえばこれだ!」と思ったので、ボイス・トレーナーの先生と低音を磨きました。でも、《最後のダンス》を歌うときは絶対に情熱的なロックのボイスが必要。実は今回、作曲家が作品で伝えたいものを表現するために原曲キーに上げて歌いました。クラシカルな深い声とロック的なボイスを使うのは、同じ声帯でギアが全然違うのでものすごい負担があるんですけど、シチュエーションと心によって声が変わっていくと僕は思うので、攻めて押していくときはロックなグーッと熱い声、でも包み込むような柔らかい声のときもあって、そのときどきで声をギア・チェンジすることにチャレンジしました。
――ジェームズ・バリの歌唱についてはいかがですか?
芝居の流れでの歌唱というところでは、一本筋の通った声というのは必要だと思っています。トートのようなことではなく、声や発声の部分ではまっすぐ挑むのがバリという役なんじゃないかなと思っていて。
そして、とにかく名曲ぞろいで泣ける!日本人の心を打つメロディが多くて、ちゃんと芝居の流れから音楽への流れが丁寧に表現されていて、脚本自体がすばらしいので、これをきっちり表現できれば、お客さまにすごく大きなものが伝わると思うので、歌うのが楽しみです。
――すべて見どころ、聴きどころだと思いますが、特にご自身の中でここ!というところがあれば教えてください。
曲で挙げるならば、作品のテーマになっている《NEVERLAND》ですね。バリが背負っているものや苦しんだことを打ち明けたあとに歌っていくナンバーで、「ネバーランドに自分の心のありかがあるから僕は輝いていける、前を向いて歩いていける、どんなにつらいことがあっても!」という想いが込められている曲です。
バリは非日常の空間に行ける瞬間が好きで、僕がミュージカルを好きな理由と同じ。劇場に足を運んでくださるお客さまもそうだと思いますが、生きていると誰もが何かしら悩み苦しみ、日々いろいろなことと闘っている。でも、非日常の空間にいる時間だけはすべてが満たされ、解放され、穏やかになれる。想像する時間や現実から離れて夢の世界に浸れる瞬間があるから生きていける、明日からまたがんばろうと思える。メロディがとても美しいので、グッとくるナンバーになるんじゃないかなと思います。
――山崎さんにとって想像すること、信じることのコツは?
いつもどういうふうに自分がそこにいることで楽しんでもらえるか、おもしろがってもらえるか、相手のことを常に考えています。相手を想像することですね。