――福間さんの委嘱作品、また福間さんに初演されることを想定して書かれた作品も多く、作曲家にインスピレーションを与える音楽家としての存在に、ロストロポーヴィチを思い出しました。
福間 私自身が未知の作品に興味を抱き、演奏会で紹介することに幸せを感じているにすぎません。現代音楽の選曲は、私にとってひとつの個性の見せどころですが、自分にしっくりこない作品もあります。私は電子音楽が重なる作品にはあまり惹かれません。ピアノの音色で作品の魅力を表現したいと思っているからです。
数年前から、リビングコンポーザー(同時代の作曲家)の作品を演奏する際には、YouTubeのライブ配信も活用しています。こうして作曲家の生の声を聴衆に届け、橋渡しの役目を果たせるのも喜びのひとつです。聴衆が作曲家の人となりに触れ、人格に魅了されることが、作品をもっと聴きたいという気持ちにつながることもありますから。
私自身、現代音楽の魅力に目覚めたことで、ジャズやボサノヴァにも興味を持つようになりました。きっかけによって音楽に向ける好奇心の幅は広がります。私の演奏を通じて、現代音楽に興味を持っていただけたら、これほど嬉しいことはありません。私は音楽世界の水先案内人でありたいと、心から願っているのです。
――先日は、日本の俳句にインスパイアされたフランス人の作品をアンコールとされたのも秀逸でした。やはり日本と関係のある現代作品の演奏に重点を置かれているのでしょうか?
福間 プログラム全体が邦人作品だったので、最後に日本に関連したフランス人作品を弾きました。日本の音楽のリクエストはよくいただきますが、それに限らず、私が素晴らしいと思う作品を幅広く紹介したいと思っています。
2021年にバッハのアルバムをリリースした折には、発売記念の演奏会に組み合わせる曲として、イラン人のファルハド・プペルさんに委嘱しました。ムスリム文化に帰属される方ですが、いちばん愛する作曲家はバッハと聞き、異文化の中に浸透するバッハの力を改めて認識しました。
バッハの音楽は、不思議なことに現代音楽にも通じるものがあります。ドイツや日本の作曲家ではなく、かけ離れた文化的背景をもつ方に委嘱したことで、バッハの普遍性がより強く象徴されたのではないかと思っています。