『舞いあがれ!』の制作ではフィールドワークを実施

『舞いあがれ!』の一場面。主人公・岩倉舞(福原遥)は、実家のねじ工場で営業として働いている。

——そして今、まさに『舞いあがれ!』の音楽を手がけられています。

音楽を聴いていると、旋律の美しさはもちろんのこと、舞台となる大阪や長崎・五島を彷彿とさせるような土着的な作風もみられます。劇伴を書くとき、いつもどんなことを意識されているのでしょうか?

富貴:まずは登場人物にまつわる土地に足を運びます。例えば実在人物を描いた作品として、過去に音楽を手がけた『マッサン』(2014年、NHK)では、主人公のモデルになった竹鶴政孝さんが辿った大阪や北海道、出身地の広島に行ったり。大河ドラマ『西郷どん』(2018年、NHK)では、鹿児島の奄美大島の島唄を取り入れたりして、その土地の音楽を加えようと意識しています。

——『舞いあがれ!』の場合は、実際に五島に行かれたわけですね。

富貴:はい。実際にどんな音楽や楽器があるのかなと思いまして、いろいろとフィールドワークをしました。

そこで見つけたのが、「五島ハイヤ節」。「ハイヤ節」というのは元々本土由来の民謡ですが、五島の場合は少しユニークで。男性で歌うことが多いのが、五島では女性が漁をしながら歌うんです。「漁に出た夫が早く帰ってこないかな」という感じで。だから、すごく明るいんですよね。音楽の中で、そんなテイストや「五島ハイヤ節」ならではの音階を取り入れました。

他にも、かつて五島はくじら漁が盛んだったみたいで、「くじら太鼓」も五島の楽器として知られています。今でもお祭りがあると、男性がくじら太鼓を叩いて家を回る風習があるそうです。メインテーマでは、くじら太鼓を想起させる打楽器や、ケーナという笛を用いています。

舞は、母・めぐみの生まれた五島列島で子ども時代のひとときを過ごした。

——一方で、「大阪」の音楽はどのようなイメージを持って作ったのでしょうか?

富貴:「大阪の音楽」といえば、やっぱりジャズのような明るい音楽のイメージがあったんですよね。それが定番のコテコテの音楽というか。でも、もう少し違うテイストの音楽もあるんじゃないか、と常に思っていて。だから今回は、クラシック調の音楽をポップスな雰囲気で仕上げました

東大阪は工場地帯で、ラグビーも有名で。だからこそ、スポーツ的な爽やかさを取り入れるようにしましたね。『お好み焼きでトライ』という音楽は、その傾向がわかりやすいと思います。

——確かに東大阪という土地柄だけでなく、主人公の舞(福原遥)や父の浩太(高橋克典)も、本当にひたむきな人柄ですよね。コテコテの関西人ではないというか……。

富貴:「こんな人、おるんかな?」ってくらい、きれいな人柄ですよね(笑)。

舞ちゃんは、「THEヒロイン」というか、「今どき、こんな良い人おる?」と思ってしまうくらい、優しくてまっすぐ。でもどこか芯があって、強い意志があって、やりたいことには一目散ですよね。なにわバードマン時代も、パイロットを目指していた頃も、一転して実家の工場に入社するときも。

彼女を表す楽器は、フルートです。優しくてきれいな音だけど、やっぱりどこか芯があります。だからフルートを使う音楽では、ただきれいでふわふわした音楽にはしたくないと思っていました。

主人公の岩倉舞(福原遥)

——半年間の放送の中で、登場人物の成長や変化に伴って、音楽も変化するのでしょうか?

富貴:そうですね。舞ちゃんを表す音楽だと、同じ旋律でも子役の頃はオカリナやリコーダーで演奏したりしています。成長するにつれてフルートになり、さらに年を重ねるとストリングス(弦楽器)を加えたり、続きの旋律を足してみたり。年齢が上がるにつれて、深みを出していくようにしています。

——電子音のような現代的なサウンドというより、原始的なアコースティックの楽器が活躍していますね。

富貴:やはり朝一番に観るドラマなので、爽やかにしたいなと思って。「1日を楽しく過ごしてほしい」という意味でも、今回はアコースティックの楽器がメインです。

主人公・舞の子役時代(浅田芭路)