——ほかにmagical momentを感じた経験はありますか?

オールソン ショパンコンクールではありませんが、私が9歳のとき、初めてカーネギーホールでアルトゥール・ルービンシュタインのリサイタルを聴いたときのこと。オール・ショパン・プログラムで、1曲目は嬰へ短調のポロネーズ(Op.44)で、圧倒されるような幕開けでした。そして最後はト短調のバラード。私は初めてその曲を聴きました。第1主題を聴いて「これまで聴いた中で一番美しい」と思い、第2主題を聴いて「いや、やっぱりこっちが一番美しい」と思いました(笑)。

演奏後には、8回ものアンコールがありました。お客さんが誰も帰ろうとしないんですよ。それだけ熱気がすごかった。このとき、私は音楽とショパンの力、そしてルービンシュタインの存在感、観客の反応がどれだけ強く響き合うものかを、はじめて実感しました。観客も演奏会の一部なんです。なぜなのか、どうやってなのか、科学的には説明できませんが、“感じる”ことはできる。9歳の私でも、あの夜、観客たちが彼にエネルギーを与え、彼もまたそれを返していると感じたのです。

彼がアンコールを弾いたのは、そうした“要望”があったからで、彼が自分から望んでというより、求められたからなんです。あの会場にいた全員が、美しく特別な体験を“共有”していた……そんな気がします。

もうひとつ印象に残っているのは、1960年にスヴャトスラフ・リヒテルが初めてアメリカに来たときの演奏会です。私は12歳で、オール・ベートーヴェン・プログラムでした。その日はピアノの先生と一緒で、上階のボックス席にいたのですが、演奏後に先生が「ルービンシュタインがいるよ。あそこ、すぐ下の席に」と言うんです。下を見ると、ルービンシュタインが心からの拍手を送っていた。それを見て私は、「なんて素晴らしいことだろう」と思いました。

偉大なピアニストが、別の偉大なピアニストに心からの拍手を送る——それは謙虚さと、音楽への愛に満ちた姿勢であり、私にとって理想の“あり方”として、今も深く心に残っています。

……というわけで、いくつかお話しましたが、私はこれまで本当にたくさんの素晴らしい音楽体験をしてきました。話し始めたら、止まらないくらいに(笑)。