——出演された感想をお聞かせください。
辻 もともとフィギュアスケートが大好きでよく観ているのですが、今日町田さんと初めてお会いして、競技のことだけでなく、こんなにも音楽について考えていらっしゃるということを知ってとても感動しました。音楽を私たちとは違う視点から捉えていらして、興味深かったです。
小井土 僕もフィギュアスケートが好きで、テレビでよく見ています。クラシックをかじってきた者としては、たまに「この曲はこれで本当にいいのだろうか?」と思うことがあるのですが(笑)、町田さんがそのあたりも含めてフィギュアスケートと音楽の関係について研究されていると知り、その音楽に対する情熱に感動しました。解説を聞きながら、収録時にあらためて町田さんの『エデンの東』を見てみると、最初のポージングからドラマの世界に入り込んでいるのがわかり、全身で表現していることが伝わってきて鳥肌が立ちました。
——モニターを見ながらの演奏はどうでしたか?
辻 ひとりで演奏するときは自由に表現できますし、オーケストラなどの複数人で演奏するときはみんなと呼吸を合わせているので、”一方に合わせる”というのは初めての経験でした。普段は自分がしたいと思う表現のもとで音楽が成り立っているので、いろいろ制約がある中で難しくもあり、面白くもありました。
小井土 その中でできる表現っていうのはある程度限られますが、それでもできることはたくさんあります。自分ができることを最大限やる。映像に合わせて演奏するというのは、ある種、別のベクトルの技能が必要で、そういうコンクールがあっても面白いんじゃないかとも思いました(笑)。僕も映像に合わせて演奏したのは初めてで、音楽のつくり方がかなり特殊でしたが、それはそれで面白く、楽しくやらせていただき、いい経験になりました。
——音楽家とフィギュアスケーター、共通するところはありますか?
辻 音を表現することにおいては共通していると思います。体を使って音楽を表現するか、私たちのように楽器を通して表現するか。自分で感じて、どういうふうに表現するかということは、たぶんフィギュアスケーターのみなさんも、たとえ同じ振付だったとしても一人ひとり違う表現になると思うんです。私たちも楽譜は同じでも表現はまったく違うものになりますから。
小井土 その表現するということに加えて、“言葉なしで表現する”っていうところがものすごく共通しているように思います。
——もしご自身で滑るとしたら、どのような曲を選びますか?
辻 私はすごく悲しい曲で滑りたいです。喜びよりも悲しい、メランコリー……そっちのほうが入り込める感じがします。楽しい曲を使っている選手がいると、「こんな楽しそうな曲は私にはムリ!」と思うこともあります(笑)。自分が滑ることを想像してもイメージがわかないというか。
小井土 悲しい曲は、ラヴェルのピアノコンチェルトの2楽章とかあたり?
辻 2楽章、いいよね! カットしないで使いたい(笑)。
小井土 競技だと時間が限られているから、ダンスでもいいかも。
辻 普段演奏するホールは静かなので、悲しい曲を選びたくなるのは、その影響もあるのかもしれません。明るい曲のプログラムで、自分が手拍子するのはいいんですけどね(笑)。
——お二人ともフィギュアスケートがお好きだそうですが、ズバリ魅力は?
辻 私はただのファンなので専門的なことはよくわからないんですけど(笑)、まず衣裳が楽しみでいつも注目しています。作品の雰囲気に合わせている選手も多くておもしろいですよね。私も演奏会のドレスを選ぶときに、たとえばシベリウスのコンチェルトで、ピンクの衣裳は着ないんです。
小井土 それだと曲の雰囲気が壊れてしまうよね(笑)。
辻 そう(笑)。あと、華やかな衣裳も多いので、見ているだけで楽しいです。
小井土 僕は……もちろん音楽にも興味はありますけど、やはり自分には到底できない体の使い方をされているので、単純にすごいなと。あとは、音楽を演奏するのと同じで、一瞬が勝負と言いますか、とてつもない集中力が必要なので、その中でパフォーマンスを発揮していて、素晴らしいと思って見ています。
辻 ただ、スケーターは曲が始まるのを待ちますけど、私たちは自分から始めるので、そこは違うかも?
小井土 たしかに。バンジージャンプに例えるなら、押されて飛ぶか、自分から飛ぶか、みたいな。あとは、あれだけギリギリの状態で勝負をしているのに、以前の自分を超えようとどんどん難易度をあげていって、それを達成しようとする姿勢にも感動します。緊張感であったり、演技中でも技が決まったときのほっとした表情であったり……演者の表情とか動きに感情が出ているところにも注目しています。
辻 演技がすべて終わったときのあの安堵感ね! 見ているこちらもほっとしたりして、選手たちに没入できる感じも魅力だと思います。