——演じていて、ベートーヴェンに共感できるところや好きなところはありますか?
稲垣 そんなに感情をむき出しにしたり、何かに対してこんなにまっすぐに気持ちを伝えたりするって、今の世の中を生きていると難しいじゃないですか。それが俳優として演じることの面白さだと思うんですけど、だからこそ、このベートーヴェンのキャラクターなんて掴みきれないですね。
でも、それでも僕が演じることによって、ベートーヴェンが重なって見えるとお言葉をいただいたりすると、すごく嬉しいです。どこかでベートーヴェンが助けてくれているのかもしれないし、降りてきてくれるのかな、なんて勝手に錯覚しながらやっています。そうでもしなきゃ演じられないですから、こんな偉大な役は!(笑)
稲垣 あまりにも自分とかけ離れた人間だからこそ演じていて楽しいし、なかなかゴールも見えないから、 それが演じ続けられる原動力になっていると思います。
ベートーヴェンの激しい部分なんかも舞台では見せますが、僕の中にももしかしたらそういう面が潜んでいるのかな。俳優の仕事って面白いですよね。自分も知らない、自分も全部知らないけど、引き出したらあるんですよね。
平野 実はね、僕が思うベートーヴェンって、自分でも遺書の一部分に書いたりもしているけど、かなり人たらしっていうか、人が好きで、進んで人付き合いをしているところがあるんです。若いときは音楽家なのに耳が聞こえなくなったことから、人との交流を避けて、人嫌いって見られてしまいますが、本当はダジャレ好きだし、冗談音楽もたくさん書いているんですよ。作品としてじゃなくても、友達への手紙にカノンをダジャレでちょこちょこって書いて。それから、友人たちみんなにあだ名をつけています。