質疑応答で明かされる角野隼斗の演奏や作曲の極意

トークの後半には、質疑応答のコーナーも。会場のファンや司会のCandyさんからのさまざまな質問に真摯に答えてくれました。

——演奏中に考えてらっしゃることってありますか?

角野 何も考えてない。何も考えてないというか、もちろん考えることもあるし、練習のときには考えるんですけど、本番はむしろあんまり何も考えたくないという気持ちがあって。感じたものが自然と出てくるのがいいなと思う。そうなるようにそれまで頑張って練習する。または、そのときに何かひらめきが浮かんでくるときもあって。

誰かとアンサンブルをするときは、例えばオーケストラで指揮者と演奏するときは、今自分がちょっと後ろにいるかもしれないってとっさに聴いて、耳がたくさん考えてるってことかもしれないですね。

——どんなことからインスピレーションを得て曲を弾いたり作曲してみようと思ったりされますか?

角野 インスピレーションはたくさんありますね。やっぱり自分が体験したことないものを体験したときには、それはすごいインスピレーションを得たなと思うので、そういうときにピアノに向かって何か弾いてみるとか。で、即興で弾いているのも大体録音しておきます。そうすると何かが生まれたりするんです。例えば、新しいコンサートホールに行ったときとか、初めての音響の場所で弾くときのリハーサルに、まず指鳴らしで即興してみたりしますね。

——唯一無二になるにはどうしたらいいですか?

角野 僕が教えてほしいです(笑)。気を付けていること、心がけていることは、やっぱり唯一無二とか言いますけど、その要素のほとんどが過去の誰かが作ったものからの引用であって組み合わせであるわけだから、やっぱり過去のものを学ばないことには自分の新しいものは生まれないと思っています。たまにそんなことを無視する天才みたいな人もいるかもしれないけれど、音楽、特にクラシックをやっていたらそういうのは出にくいですよね。そうするとやっぱり、たくさん知ることが大事で、でも知るだけではだめだから、その中で自分がどう感じたかを自分で考えること、言語化することが大事で、そういう中で、あ、こうしたら面白いんじゃないかっていうのが生まれてくるんじゃないですかね。

——新しい曲にチャレンジされるとき、どんなふうに曲を作り上げていきますか?

角野 新しい曲を作り上げるときに僕が最初にするのは、曲がどのような構造になっているかを把握することです。構造が把握できると、のちに暗譜を早くできることにも繋がります。それは曲をいくつかのセクションに分けるということなんですけど。で、そのいくつかのセクションの1つひとつのセクションが、次はなんでこのセクションがあるのかっていうのを見ていく。別に理由が必要とは限らないんですけど、ここはあそことここを繋ぐためにあるんだなとか、ここは盛り上がりのあとのコーダに向かう嵐の前の静けさみたいなところだなとか。

クラシックだと、ある主題があって、それがいろんな形で変わって出てくることが多いので、それぞれのセクションに対してバスがどうなっているかとか、どのようにに現れてくるかを知っておくと、これもあとで暗譜が早くなるし、曲の理解を早くするという助けにもなります。

単に音符を手に覚え込ませるのも大事なことの一つではあるんですが、そこから手から、頭から、目からっていうのもありますね。それが楽譜から受け取る印象だから。そんないろんなものの組み合わせで、1つよりも多ければ多いほど、記憶とその手と脳の繋がりが強固なものになっていく。そのプロセスは、音楽に限らず、他の、例えば定期テストとかにも応用できるかもしれないです。

だんだん曲が把握できてくると、今度はもう物理的にここ弾くの難しいとか、 ここはどう表現したらいいかわかんないとか、そういうことが出てきますから、そういうときに世にある音源を聴くわけですね。有名な曲だったら幸いたくさんの音源がありますから。そうすると、ああ、こう弾けばいいんだっていうヒントをもらえるわけです。

最終的には自分からあふれてくる表現でなければいけないですけど、自分のものにするっていうのは時間がかかることです。これをサイクルしていくことによって、だんだんできていくんですかね。

——普段から作曲や編曲をしてるんですけど、角野さんが普段作曲や編曲をされている時に大事にしていることとか、極意みたいなものがあれば教えていただきたいです。

角野 大事にしてることはひらめきですね。極意は「考えすぎないこと」かもしれない。いろんなタイプがいると思うんですけど、僕にとっての作曲とか編曲は、明らかに身体に紐づいていて、考えて考えて作るものよりも、さっと調子いいときに弾いた即興のほうが良かったりするんですよ。悔しいなと思うんだけど、自分の中からひらめきで出てきたものをとにかくたくさん残し、それをあとは繋げていく作業になります。そこは身体というよりは頭を使う部分ですね。でもやっぱり最初の「あ、これが弾きたいからこれが自然に出てきたんだ」っていうものを一番に大切にしておくといいのかなって。そんな感じが多いかもしれないですね、僕の場合。

***

最後にはオリジナル曲「胎動」の演奏でイベントが締めくくられました。Apple Music Classicalの活用方法から角野さんの演奏や作曲についての考え方まで語ってくださり、盛りだくさんの1時間でした。

角野隼斗
角野隼斗 ピアニスト

1995年生まれ。2018年、東京大学大学院在学中にピティナピアノコンペティション特級グランプリ、及び文部科学大臣賞、スタインウェイ賞受賞。これをきっかけに、本格的に...

三木鞠花
三木鞠花 編集者・ライター

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...