シーザーと恋に落ちたクレオパトラの魅力をオペラで味わう

そんなクレオパトラ7世の魅力が堪能できるオペラが、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルの《エジプトのジューリオ・チェーザレ》(1724)。タイトル通り、エジプトへやってきたカエサルがクレオパトラと出会って魅せられ、彼女に味方してプトレマイオスを滅ぼし、2人が結ばれるまでの物語だ。

歴史上の「シーザーとクレオパトラ」の波瀾の物語の序章だが、ハッピーエンドなので楽しく見られるし、何より創作の絶頂期にあったヘンデルの音楽が素晴らしい。この時代のオペラは登場人物たちがアリアを歌いまくる歌合戦オペラだが、本作では1曲1曲のキャラが立っていて、人物の感情や性格がダイレクトに伝わるのだ。

2人が結ばれるメインのストーリーのほかに、ポンペイウスの妻コルネーリアとその息子のセクストゥスによる復讐譚が脇筋として加わるが、こちらは史実とは程遠く、当時の政治状況を暗示する目的もあったらしい。

ヘンデル《エジプトのジューリオ・チェーザレ》あらすじ

紀元前48年のエジプト。国王プトレマイオス13世は、王朝の慣例で姉のクレオパトラと結婚し共同統治をしていたが、姉弟仲は悪かった。そこへローマの将軍カエサルが、政敵のポンペイウスを追って上陸。プトレマイオスはカエサルに恩を売ろうとポンペイウスを討つが、逆に不興を買ってしまう。ポンペイウスの妻コルネリアと息子セストは復讐を誓う。

クレオパトラはプトレマイオスとの争いを有利に進めようとカエサルを誘惑。味方につけることに成功する。プトレマイオスはカエサルに戦いを仕掛け、追い詰められたカエサルは海に飛び込んで行方不明に。プトレマイオスはクレオパトラを捕えてカエサルの死を宣言するが、カエサルは生きていた。カエサルはクレオパトラを助け出し、セストはプトレマイオスを手にかけて父の復讐を果たす。カエサルとクレオパトラは幸せのうちに結ばれる。

  (文中の人名はラテン語読み)

ちなみにオペラの元ネタは、アントーニオ・サルトーリのオペラ《エジプトのジューリオ・チェーザレ》(1677)。シーザーとクレオパトラの世紀の恋物語はオペラでも引っ張りだこで、一説によると1628 年から1800年の間だけでも、幾つものヴァージョンによって50回以上は上演されているという。

ヘンデルのこのオペラ、タイトルロールはカエサルだし、アリアの数もそれぞれ8曲ずつで平等なのだが、クレオパトラのアリアの方が印象深い曲が多い、と思うのは筆者のひいき目だろうか。1曲1曲に、彼女の野心的であると同時にチャーミングなキャラクターと、豊かな感情が溢れている。

自分の魅力を知り尽くした小悪魔的なアリア、天国的な官能に満ちた誘惑のアリア、戦いに赴くカエサルの無事を祈る切ないアリア、囚われ、悲痛な運命を嘆く美しいアリア、そしてカエサルの無事を知った時の飛び立つようなアリア……《エジプトのジューリオ・チェーザレ》におけるクレオパトラは、あまたのオペラ・ヒロインの中でも3本の指に入るくらい魅力的だ。

カエサルと恋に落ちた時、クレオパトラは21歳(カエサルは52歳!)。このオペラには、若く溌剌としたクレオパトラの息遣いが満ちている。

【ヘンデル《エジプトのジューリオ・チェーザレ》~クレオパトラの必聴アリア】

♪第2幕「憐んでいただけるなら」:プトレマイオスとの戦いに出ていったカエサルを案じ、無事を祈る切ないアリア

♪第3幕「過酷な運命に泣きましょう」:カエサルの「死」を知らされ、プトレマイオスに捕えられたクレオパトラが運命に絶望して歌う美しいアリア。とろけるようなメロディはまさにヘンデル節!

♪第3幕「たとえ嵐で船が難破しても」:死んだと信じていたカエサルが生きていたとわかった喜びを歌う、飛び立つようなアリア