クレオパトラとアントニウスの没落を描く20世紀のオペラ

残念ながら現在レパートリーに残っているクレオパトラ・オペラは、ヘンデル作品以外には見当たらない。が、20世紀、大きな話題になったオペラがあった。アメリカの作曲家、「弦楽のためのアダージョ」が有名なサミュエル・バーバーの《アントニーとクレオパトラ》(1966)がそれ。タイトル通り、アントニーとクレオパトラが主人公だ。

メトロポリタン歌劇場の新しい建物の柿落とし作品として委嘱され、シェイクスピアの戯曲『アントニーとクレオパトラ』に基づいてフランコ・ゼッフィレッリが台本を書いた豪華版だったが、失敗に終わっている。

その後大幅に改訂され、現在ではこちらがたまに舞台にかかる。内容は2人の没落の軌跡なので、重苦しくない、と言ったら嘘になるだろうか。

サミュエル・バーバー《アントニーとクレオパトラ》

アントニウスと恋に落ちた時、彼女はまだ28歳だった。やっぱりオペラの舞台で見るクレオパトラは、溌剌と自信に満ちていてほしいのだ。2人の英雄もまた、そこに惹かれたのだろうから。

加藤浩子
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...