汚辱にまみれた少女時代

マリーの出自は悲惨である。生まれはノルマンディーの寒村。もとの名はアルフォンシーヌ・プレシといった。父は行商人で、美貌の母には貴族の血が流れていた。だが父は酒癖の悪いDV男で、母は命からがら逃げ出し、スイスの奉公先で死亡。マリーは彼女の美貌が役に立つとわかった父によって、70代の老人のところに妾奉公に出される。

その後父は娘をパリの八百屋に売り飛ばし、彼女は洗濯屋や仕立て屋などを転々とすることに。ロックプランが出会った「洗っていないかたつむり」はこの頃のことである。彼女はいつもお腹を空かせて、パリをほっつき歩いていたのだ。

空腹と放浪は、自分のレストランに現れた彼女を見そめたレストラン店主に囲われることで終わりを告げた。彼女はパトロンに連れられて訪れた舞踏会でグラモン公爵ギッシュを虜にし、大出世を成し遂げる。ギッシュは彼女に贅沢をさせただけでなく、教育を施したのだ。

やがて聖母と祖母の名である「マリー」と、貴族風の「デュプレシ」を名乗ることになるアルフォンシーヌは、ギッシュに磨かれたおかげで知性と社交性を開花させ、大貴族のパトロンを得られるようになったのである。

マリーは、いくつかの階級に分かれていたパリの娼婦の中でも最上級である「高級娼婦」に属していたが、このクラスの女性は自分で相手を選べるのだった。どうやってそこまで上り詰めることができたのかは、これはもうケースバイケース、「運」に左右されるところが大きかったようである。