椿姫像に重なる 作曲家の伴侶の姿

ヴェルディとジュゼッピーナはやがてブッセート郊外のサンターガタに購入していた地所に引越し、そこに建っていた農家を改装して終の住処にした。家の周りには、外部からの雑音を遮断するかのように高い塀が巡らされた。《椿姫》はここで、そのような時期に作曲されたのである。ジュゼッピーナはでき上がってくるヴィオレッタのパートを歌って、アドヴァイスを与えたはずだ。 

ヴェルディとジュゼッピーナの終の住処となったサンターガタの邸宅

もちろんジュゼッピーナは娼婦ではない。だが純潔でもない。オペラ《椿姫》の原題は、《道を誤った女 La traviata》という。初めからそうだったわけではなく、二転三転してたどり着いたタイトルだ。

だが、第3幕でヒロインのヴィオレッタが歌うアリア「さようなら、過ぎた日よ」に登場する「La traviata=道を誤った女」の過去を悔いる想いは、ジュゼッピーナの気持ちに重なる部分があったのではないだろうか。

1853年の冬、ヴェルディが、《椿姫》の直前に作曲した《イル・トロヴァトーレ》の初演のためにローマに滞在していた時、自分の子どもに会いにフィレンツェを訪れていたジュゼッピーナは、切ない恋文をヴェルディに送り続けた。

その中にある一節、「私を愛して、私があなたを愛しているように」(1853112日付)という言葉は、《椿姫》の第2幕で、ヴィオレッタがアルフレードに密かに別れを告げる言葉と同じだ(必聴アリアの2曲め)。この手紙を受け取った頃、ヴェルディは《椿姫》に取りかかり始めていた。

ジュゼッピーナとヴィオレッタの「愛」は、やはり重なるのである。

《椿姫》が初演されたヴェネツィアのフェニーチェ大劇場