ウィリアム・リリー(1602~1681)17世紀イギリスの占星術師。
ヘレナ・P・ブラヴァツキー(1831~1891)
ロシア生まれアメリカやヨーロッパで活動、大衆的オカルティズムに影響を与えた。

「火星」戦いをもたらす者

なぜホルストの《惑星》が、太陽に近い順番「水金地火木……」ではなく火星から始まるのか、謎に思われる人も多いかもしれませんが、火星は牡羊座の支配星であり、黄道12宮(占星術において、黄道が経過している12の星座のこと)のスターター星座である牡羊座の支配星「火星」から始まるのは、非常に納得がいきます。金管が勇ましく、闘いの前の不穏な緊張感も表れています。

支配星とは
各星座には、それぞれ縁の深い天体が「支配星」として配当されています。
その天体は、支配星として所属する星座=オウンサインに入っているとき、一番パワーを発揮します。
 

火星の呼び名は「マルス(マーズ)」ですが、ここで思い出されるのはローマ神話の軍神マルスです。マルスは農耕の神でもあり、農耕の始まる3月の神でもあります。まさに牡羊座の神です。石器時代に始まる人間のもっとも古い本能は、戦闘精神にあったともいわれます。トロンボーン奏者でもあったホルストだけに、ホーンセクションの存在感が大きいですが、火星から天王星までの6曲は最初、2台のピアノのために書かれていました。牡羊座の人は、「俺の曲だよ火星」と思って聴くと楽しいです。

「金星」平和をもたらす者

うっとりするような美しい曲です。金星=ヴィーナスは愛と美の女神、牡牛座と天秤座の支配星で、牡羊座の火星の後に、牡牛座の金星が来るのはいかにも占星術的です。火星が男性的でアグレッシヴなのに対して、金星は穏やかで受け身、水のようなしなやかさを表現しています。ホルストは永遠に女性的なるものをイメージして書いたのかもしれません。ラスト近くのチェレスタのキラキラしたサウンドは、ヴィーナスのベッドに金色の雨に変身したゼウスを想像させます。

ちなみに乙女座のホルストのネイタル・チャート(生まれた日時の星座配置)では、水星と木星の2つの天体が天秤座にあり、「平和なるもの」をつねに美徳として考えていたふしが。「金星」には作曲家の理想の世界が描かれているように思えてなりません。牡牛座と天秤座のテーマ曲です。

ルネサンス期イタリアの画家サンドロ・ボッティチェルリ作『ヴィーナスとマルス』

「水星」翼のある使者

水星はローマ神話のメルクリウス=マーキュリーを象徴しています。双子座と乙女座の支配星。ころころ転がる水銀のようにとらえどころがなく、火星と金星が「男」と「女」だったのに対し、非常に中性的です。ギリシア神話ではヘルメスに当たり、雄弁家、盗賊(!)、商人、職人を庇護する神。この後に登場する「天王星」と「水星」は、象徴的に「ハイ・オクターヴ」の関係にあります。水星がよりハイテクで高度になった惑星が天王星なのです。ホルストは恐らく、そうした象意も考えていたのではないでしょうか。双子座と乙女座は、落ち込んだときにはちょっぴりひょうきんな感じのするこの曲を聴いて元気を出しましょう。

ロココ期のイタリア人画家ドナート・クレティ作『メルクリウスとパリス』(一部)