高校生のときに聴いた「理想のチェロの音」

8. もっとも衝撃を受けたコンサートは?

上野 けっこう前ですが、高校生の頃に石川ミュージックアカデミーに行って、ジャン・ワンというチェリストのブラームスのドッペル・コンチェルト(ヴァイオリンとチェロのための協奏曲)を聴きました。そのときの彼の音が衝撃で、素晴らしくて、理想の音といえば彼の音を思い描くようにしています。

ブラームスのドッペル・コンチェルトは、バランス的にだいたいヴァイオリンがよく聞こえて、チェロは低音なのであまり聞こえないことが多いですが、彼のそのコンサートは逆でした。チェロが始まる1音目が、爆破ボタンを押したようなすごい音がしました。

——ジャン・ワンさんとはその後、何かコンタクトをとる機会などありましたか?

上野 そのときに講習会があって、マスタークラスを受けて、すごく勉強になりました。あとは、コンクールの審査員に彼がいらしたこともありました。

——マスタークラスで心に残っていることはありますか?

上野 彼は本当にイマジネーションが豊かで、音を色として捉えていたり、一つのフレーズで、最初は金色でそれが青く変わって……などすごく具体的にイメージしやすいように説明してくれました。あとは、「ここは冬に1匹の狼が唸っているところだ」などわかりやすく教えてくれたので、そういうことも考えながら弾いているんだなぁと勉強になりました。

9. 今まで弾いた中でいちばん思い出に残っている曲は?

上野 初めて弾いたコンチェルトであるラロと、ジュネーヴのコンクールで弾いたルトスワフスキのチェロ協奏曲です。

2021年のジュネーヴ国際音楽コンクールでの上野さんの演奏