今度はフランスのパリ。1940年に録音されたワンダ・ランドフスカのスカルラッティ演奏にも、そんな戦時を思わせるような爆弾の破裂音が入っている。
▼スカルラッティ:ソナタ ニ長調 K.490/L.206(2分過ぎに爆発音)
さほど遠くないところでゴゴゴーンと鳴っているような感じ。これが爆弾だったら演奏など放り出してすぐ逃げ出したくなる。それでも、チェンバロを復活させた演奏家は、まったく手を止めることがない。
前年9月にフランスはドイツに宣戦布告はしたものの、この時期はまだ両国は本格的な戦闘には入ってなかった。国境付近でにらみ合いがだらだらと続いていたのだ。
パリの小ぶりなスタジオでこの収録が行なわれたのは3月。5月になってベルギーにドイツ軍が攻め込み、パリに避難民があふれたことで、パリの人々は戦争下にあることを初めて実感したというくらい、平和ボケていたのだ(その1か月後に、パリはドイツ軍の支配下に置かれることとになるが)。
この録音に入っている音は、少なくともドイツによる砲撃や空爆によるものというのはありえない。かといって、雷の鳴り方とはちょっと違うようにも感じる。となれば、花火のようなものではないのか。ちょうど謝肉祭の時期とも重なる。
悲劇を1か月後に控えて、まだ戦争など遠い出来事のように生活していた人々による祝祭の響き。そう考えると、この演奏を取り巻く、独特な空気感がじんわりと身にしみる。
それにしても、なんて自由奔放な演奏なんだ!