第1楽章の序奏は、いかにも「昔、こんな哀れな男がおりました」というナレーションが聞こえてきそうな雰囲気で始まる。失恋とその挫折、破滅を描いたシンフォニーにはふさわしい前口上だ。アコーディオンならではの郷愁を誘う語り口なのである。
さらに、この交響曲は、内声部がやたらめったらに蠢き、それが心理的な揺動を表わすように作られている。アコーディオンはそういったモゴモゴした音形、モゾモゾした振動音が得意な楽器なのだ。空気が抜けるような音などを含め、まさに内声部の動きが生々しく表現されている。そう、このモゾモゾ感こそ、《幻想》の真髄!
そうした効果によって、終楽章もじつに騒々しい。この曲のもつ喧騒を、決して大音量ではなく、室内楽のサイズで伝えてくれるのだ。この曲に通底しているノスタルジーをいっそう香り立たせつつ。
また、アコーディオンは声部を重ねることでオルガンのような響きも得意にしている。第1楽章のコーダなど、じつに壮麗きわまりない。
ついでにオルガン版も紹介しておこう。最近はオルガン版ブルックナーの交響曲全曲に挑むハンスイェルク・アルブレヒトの演奏だ。
原曲では、コーラングレとオーボエによる鳴り交わしが印象的な第3楽章。その楽章最後ではコーラングレの旋律に応えるのは、遠雷を表わすティンパニのトレモロ*だけになる。孤独と不気味さが支配する部分だ。
*トレモロ:同一音の急速な反復
このオルガン版は、ティンパニの代わりにオルガンの低音トレモロで表現する。その響きは地の底から聞こえてくるようで、いかなる演奏よりも孤独で不気味さが際立つ。