広いレパートリーなのにも関わらず、そこに柱が見当たらないのも、自分の方向性をもっていなかったせいなのかもしれない。周囲の思惑や、成り行き次第が決まっていったように。

1980年代に、アメリカ人作曲家の作品録音がいくつかあるのも、現地の楽壇とのお付き合いをしっかり行なった結実でもある。ロジャー・セッションズの管弦楽のための協奏曲、ピーター・リーバーソンの「ピアノ協奏曲第1番」(ボストン響100周年を祝う委嘱作品)、そしてジョン・ハービソンの「交響曲第1番」など。これらは、じつに丁寧に演奏されている。生き生きとしたリズムと爽やかなサウンドで、無味乾燥な音楽と思われがちな作品からその魅力を存分に引き出してくれる。

ハービソン:交響曲第1番より第1楽章(小澤征爾指揮 ボストン交響楽団)

リーバーソン:ピアノ協奏曲第1番より第3楽章(小澤征爾指揮 ボストン交響楽団、ピーター・ゼルキン[ピアノ])