音楽文化の「サラダ」という名の音楽

スペイン・カタルーニャが生んだジョルディ・サヴァールは、さまざまな文化が混交した音楽につねに意識的なアーティストだ。彼が2017年にリリースしたアルバム「奴隷制の道〜アフリカ、ポルトガル、スペイン&ラテン・アメリカ 1444-1888」は、ヘヴィなテーマを扱いながらも、収められている音楽はじつに愉悦に満ちている。

南米やアフリカに伝わる伝承曲をアレンジした音楽を中心に、主に中南米でヨーロッパの音楽を書いた作曲家の作品も収録。モンテヴェルディやバッハ、ベートーヴェンを演奏する、いつものアンサンブルに、アフリカや南米のミュージシャンを呼んでのコラボレーションだ。

▼マテオ・フレチャ:ラ・ネグリーナ/ググルンベ

サヴァールと同郷カタルーニャの作曲家マテオ・フレチャ(1481-1553)は、エンサラーダの作曲家として知られている。エンサラーダとは、イタリアのマドリガーレ*のような多声歌曲だが、さまざまな言語や民謡がごちゃまぜになった、その語源でもある「サラダ」のような特徴をもつ。

*マドリガーレ:イタリアの世俗声楽曲の一分野

この《ラ・ネグリーナ(黒人の女性)》も、その一つ。途中で打楽器のリズムに誘われて「サン・サベヤ、ググルンベ、アランガンダンガ、ググルンベ」というリズミカルな呪文のような言葉が繰り返される。「アレルヤ」で締めくくられたあと、ソン・ハローチョの伝統曲が付け加えられている。

ソン・ハローチョとは、メキシコ先住民の音楽をベースに、奴隷として連れて来られたアフリカ、征服者のスペインからの影響によってできた、まさにサラダそのものの音楽。サヴァールたちは、アルバムのコンセプトに合わせ、ごちゃまぜ感をより増したアレンジと組み合わせで演奏しているのだ。ちなみに、この曲をもっと西洋風(正統派の古楽風?)に演奏すると、こんな感じ。

▼マテオ・フレチャ:ラ・ネグリーナ

サラダ音楽としてのソン・ハローチョ。サヴァールは、こんな曲も演奏している。間寛平を思い起こさせる「アヘアヘ」という合いの手が印象的である。

▼ラ・イグアーナ(ソン・ハローチョの伝統曲)

ほかにも、作曲家不祥の伝統曲がずらりと並ぶアルバムだ。「シランダ」はブラジル北東部の舞曲。「グリオ」とは西アフリカの吟遊詩人のことで、彼らの歌はラップの源流となった音楽でもあるという。

▼サイ・ダ・カーザ(シランダ)

▼サンジン(グリオの歌)