征服された側が征服した側に音楽で侵食していく

フアン・グティエレス・デ・パディーリャ(1590-1664)は、スペインに生まれ、30代でメキシコに渡った作曲家だ。現地のプエブラ大聖堂のカペルマイスターを務め、ミサ曲やモテット*などを書いた。民族的な舞曲を取り入れたビリャンシーコ(クリスマス・キャロル風の小品)も残している。《タンバラグンバ》はその代表的な音楽だ。

*モテット:13世紀前半に成立したポリフォニー(多声音楽)声楽曲の一分野

▼フアン・グティエレス・デ・パディーリャ:タンバラグンバ

そのデ・パディーリャに学び、プエブラ大聖堂のカペルマイスターを継いだのがメキシコ生まれのフアン・ガルシア・デ・セスペデス(1664-78)だった。《おお、なんと身を焦がすことか》は、グアラチャと呼ばれるスペインの植民地で流行ったジャンル。この曲をサヴァールは過去に複数回録音しており、そのたびにアレンジが違う。今回は、さらに混交の度合いが深く、ノリノリな音楽になった。

▼グアラチャ《おお、なんと身を焦がすことか》

かつて奴隷として連れて来られた黒人の音楽が、世界のヒットチャートのベースとなっている現代。負けた側、征服されたほうの文化が、勝ったほう、征服した側の文化に入り込んで、それを侵食していく。それはある種、痛快な復讐劇でもあるのだが、美しく、楽しい音楽の裏を掘り返せば、そこには悲惨な歴史が横たわっていることに気づかせられることでもある。果たして、ベートーヴェンの音楽にも?

鈴木淳史
鈴木淳史

1970年山形県寒河江市生まれ。もともと体育と音楽が大嫌いなガキだったが、11歳のとき初めて買ったレコード(YMOの「テクノデリック」)に妙なハマり方をして以来、音楽...