――今回のアルバムは第13集ですが、「リトミカ・オスティナータ」は初めてなんですね。
広上 タイミングが合わなかったのもあるのでしょうが、この曲に合うピアニストが見つからなかったということもあると思います。
聴くとシンプルそうだけど、演奏するのはとても難しい。松田さんや外山さんのような優れたピアニストが出てくる時代になって、伊福部さんも天国で喜ばれていると思いますよ。
そして、ロシアで勉強していた松田さんが、伊福部さんの音楽に惹かれたのは、とてもすてきな話だと思う。日本人の血が流れているからこそ。伊福部さんがそれを知ったら、何よりも喜んだんじゃないかな。
外山 僕はドイツのハノーファーに留学したのですが、それまではクラシック音楽をやる上で日本人であることはすごく不利だと思っていました。でも、留学でよかったことの一つは、自分の生まれたところに自信を持ち、愛していいんだと思えたことなんです。ですから、ここで伊福部作品を弾かせていただけたのには、大きな意義を感じます。
この曲は、自分だけが弾くのではなく、必ずオーケストラの誰かと一緒に同じことをやるところがすごく多い。いい意味ですごく室内楽的な要素があります。今回は広上さんに緻密なリハーサルをしていただけたので、自分がオーケストラの中で弾いてるような、とても幸せな感覚を味わえました。
広上 こっちも初めてだから、前の日にホテルで必死に勉強したんだよ。そういうふうに見せないのが僕の仕事なんだけど(笑)。
ピアノもオーケストラも怒涛の勢いで、合戦みたいな曲。「川中島の戦い」の上杉謙信の「車懸りの陣」みたいな。ピアニストが中心にいて、周りのオーケストラがぐるぐると曲を回す。そしてお客さんも、魔法にかかったように熱狂する。
――「車懸り」とは、とてもわかりやすい説明です(笑)。