まるで合戦!? 日本人の血が騒ぐ「リトミカ・オスティナータ」

――今回のアルバムは第13集ですが、「リトミカ・オスティナータ」は初めてなんですね。

広上 タイミングが合わなかったのもあるのでしょうが、この曲に合うピアニストが見つからなかったということもあると思います。

聴くとシンプルそうだけど、演奏するのはとても難しい。松田さんや外山さんのような優れたピアニストが出てくる時代になって、伊福部さんも天国で喜ばれていると思いますよ。

そして、ロシアで勉強していた松田さんが、伊福部さんの音楽に惹かれたのは、とてもすてきな話だと思う。日本人の血が流れているからこそ。伊福部さんがそれを知ったら、何よりも喜んだんじゃないかな。

外山 僕はドイツのハノーファーに留学したのですが、それまではクラシック音楽をやる上で日本人であることはすごく不利だと思っていました。でも、留学でよかったことの一つは、自分の生まれたところに自信を持ち、愛していいんだと思えたことなんです。ですから、ここで伊福部作品を弾かせていただけたのには、大きな意義を感じます。

この曲は、自分だけが弾くのではなく、必ずオーケストラの誰かと一緒に同じことをやるところがすごく多い。いい意味ですごく室内楽的な要素があります。今回は広上さんに緻密なリハーサルをしていただけたので、自分がオーケストラの中で弾いてるような、とても幸せな感覚を味わえました。

外山啓介 Keisuke Toyama, Piano
札幌市出身。5才からピアノを始める。
2004年、第73回日本音楽コンクール第1位(併せて増沢賞、井口賞、野村賞、河合賞、聴衆賞を受賞)。東京藝術大学卒業。08年よりドイツ(ハノーファー音楽演劇大学)留学を経て、11年、東京藝術大学大学院を修了。18年、第44回「日本ショパン協会賞」受賞。札幌大谷大学芸術学部音楽学科特任准教授。桐朋学園大学非常勤講師。
07年、デビューCD『CHOPIN:HEROIC』リリース。サントリーホールほか全国各地で行われたデビュー・リサイタルが完売、新人としては異例のスケールでデビュー。13年、ベルギー国内5か所でフランダース交響楽団定期演奏会に出演しヨーロッパ・デビュー。16年にはベルリン交響楽団日本公演ツアーにソリストとして参加。17年はデビュー10周年記念ツアーを全国約20か所で実施。毎年全国規模のリサイタル・ツアーを行なっており、その繊細で色彩感豊かな独特の音色を持つ演奏は、各方面から高い評価を得ている。
これまでに、N響、東京フィル、日本フィル、新日本フィル、読響、札響など多くのオーケストラと共演。植田克己、ガブリエル・タッキーノ、マッティ・ラエカリオ、吉武雅子、練木繁夫の各氏に師事。

広上 こっちも初めてだから、前の日にホテルで必死に勉強したんだよ。そういうふうに見せないのが僕の仕事なんだけど(笑)。

ピアノもオーケストラも怒涛の勢いで、合戦みたいな曲。「川中島の戦い」の上杉謙信の「車懸りの陣」みたいな。ピアニストが中心にいて、周りのオーケストラがぐるぐると曲を回す。そしてお客さんも、魔法にかかったように熱狂する。

――「車懸り」とは、とてもわかりやすい説明です(笑)。