マシスン音楽学校が創設されたのは、1994年のこと。アヌープさんは、恩人であるイギリス人のマシスン神父が病に倒れ、その最期をみとったとき、今度は自分がこれまで受けた恩恵を社会に戻していく番だと感じ、学校の設立を決意したそうです。
神父の遺族が、葬儀をするかわりにその費用をアヌープさんに託してくれたことで、これを元手に学校を設立。学校の名前には、神父の名前をつけました。
当初は20人ほどの子どもたちを集めてスタートしたマシスン音楽学校も、今では約50人の子どもたちが学んでいます。
食事や制服も支給、すべてが無料の全寮制。地域の教会から情報を集め、面談などでしっかり実態を調べたうえで、貧困層の中でもとくに貧しい子どもに限って受け入れているそう。
学校を訪れると、その雰囲気のよさに驚きました。子どもたちがとても明るく、先生という立場の大人に対しても自然に接し、それでいて礼儀正しい。上から押さえつけるタイプの教育をしていないことがわかります。子どもたちが身につけている制服や靴下がかなり使い込まれたものだということに気がついて、やっと、それぞれが厳しい境遇に生まれた子だったのだということを思い出しました。
ちなみに、先生方の多くもこの学校の卒業生です。
この学校では、学業全般やインド音楽に加えて、全員が西洋クラシックの弦楽器を一つ学んでいます。この日はスクールコンサートを開いてくれました。
演奏からは、全員が音を真剣に鳴らしている感じが伝わってきます。コルカタにこういう子どもたちが育っていたとは、本当にびっくりしました。
Mathieson Schoolの生徒たちはみんな弦楽器を習っています。訪ねた日、スクールコンサートを開いて、子供たちのオーケストラの演奏を聴かせてくれました。全員音を真剣に鳴らしている感じが伝わってくる、良い雰囲気のオーケストラ。インドのコルカタにこういう子たちが育っていたとは。 pic.twitter.com/XhvIviy8QU
— 高坂はる香(音楽ライター) (@classic_indobu) February 16, 2019
卒業生には、軍楽隊や音楽学校の先生として活動している人も多いそう。農村部ではまだカーストなどにより、就ける仕事の縛りが強いなか、西洋楽器を学ぶことが子どもをそこから解放している、とても興味深い例です。
それにしても、このような素敵な学校を設立したアヌープさんとは、いったいどんな人物なのでしょうか。後日ロンドンを訪れ、お話を伺いました。