少年少女にヴァイオリンのワークショップを

新型コロナウイルスの感染拡大がおさまらないなか、今はこのプロジェクトも先の見通しがわからないところですが、初めて子どもたちにヴァイオリンのワークショップを行なったときの様子をご紹介しましょう。

指導を引き受けてくれたのは、インド在住の日本人ヴァイオリニスト、高松耕平さん。初日は高松さんと楽器店にヴァイオリンを調達しにいきました。店員さんはまったくヴァイオリンを弾くことができないにもかかわらず、どれもとてもいい楽器だと言い張ります。

デリーではかなり大きいほうだという西洋楽器店。

そこには、部品が紛失しているとか、駒が高すぎて弦が押さえられないという状態のまま、ヴァイオリンが並んでいました。高松さんの口からも「こんな状態でよく置いておこうと思うよなあ……」という言葉が漏れます。とはいえ、なんとかその中から問題のない楽器を見繕いました。

コロニーに到着すると、挑戦したいという少年少女がわらわらと部屋に集まってきました。ヴァイオリンの説明をするといっているのに、彼らの手にはなぜか自分たちの楽器が。スプーンとお皿で参戦する子もいます。

そして高松さんが調弦していると、その音に反応するように、勝手に自分たちの楽器演奏と大合唱が始まってしまいました。

ものすごく調弦の邪魔だが、愉快な雰囲気。

試し弾きでは、すんなり音が出る子もそうでない子もいましたが、いずれにしてもミュージシャン同士なので話が早い。楽器の調整の話になれば、もともと彼らが使っているチューナーがすぐに出てくるし、ヴァイオリンの扱いもていねいです。先に挑戦した子が、その後すぐに別の子を教えようとするのも、でしゃばりといえばでしゃばりなんだけれど、そもそもこうして互いに楽器やパフォーマンスを教え合うことが彼らの日常なのだよなぁと

デリーで継続的に教えてくれるレベルの高いヴァイオリニストを確保することは簡単ではありません。そこにきて、この新型コロナウイルスによる影響……。

コロニーの人々も、パフォーマンスの仕事がキャンセルとなり、蓄えがない世帯は今日食べるものもない状態になっているそうです。今はなんとか、みんなで元気にこの苦境を乗り切る策を考えるほかありません。そしてまた音楽やエンターテイメントが求められる暮らしが戻ってきたとき、彼らとともに新しい挑戦を再スタートしたいと思っています。

(でも逆に、今回のことでオンラインレッスンをする演奏家が増えたことで、新しい道が拓けるかも? と考えているところ)

生き方次第で楽しくなる!

ところで、覚えていらっしゃるでしょうか。私が最初に掲げた問いを。

「インドの貧しい人たちは、なぜ自分たちを貧困から救ってくれない宗教の厳しいルールをひたすら守って暮らしているのか」。今も結局、その答えは見つかっていません。

ただ、豊かさ、幸せにはいろいろな形があるということ、貧困層とされる人々にも、生き方によっては楽しいことがこれでもかというほどあるらしいことは、彼らと関わる中で心の底から理解しました。自分の価値観に縛られて物を見ようとすると、見えるものも見えなくなってしまうので、大損だと学びました。

そして実を言うと、私にとって、この未知の視点や価値観を教えてくれる人という意味では、インドの人たちもクラシックの演奏家たちも、同じように重要な存在なのでした。

インドにライフワークをもつ人
高坂はる香
インドにライフワークをもつ人
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...