——橋本さんも所属しておられる骨董通り法律事務所の『エンタテインメント法実務』(弘文堂)の中に非常に気になる記述がありまして。寺内康介さんが書かれたコラム(26ページ)に、こう書いてあるんですね。引用します。
なお、一般論としてはおよそ適法な引用として許諾が不要であるにもかかわらず、念のため、権利者の許諾を得ようとすることをお勧めできない。権利者が許諾を拒否した場合に発表しづらくなるし、拒否されたにもかかわらず、発表すれば、そのことが返って厳しいクレームに発展することもありうるからだ。
ということは、例えば、私が自分のインターネットラジオ番組で、レコード会社とは包括契約していない以上、引用の範囲内だったら楽曲を使ってもよいのでしょうか。
橋本 はい、使用しても問題ありません。
——それでもレコード会社には筋を通したいので、その引用の範囲内で使用するから番組で使っていいでしょうか? って問い合わせちゃうと、かえって複雑なことになるので問い合わせないほうがいい、ということですよね? これは(笑)。
橋本 ええ、実際にはやぶ蛇になることが多いと思います。法律では許されるはずなのに、レコード会社からはダメだと言われる可能性があるからです。引用だからOKです、という会社はほとんどないと思います。
——やっぱりそうですか……。現実はそうなんですね。
橋本 ダメと言われたのに使ってしまうと、問題になったときに分が悪い。「え? 問い合わせてきたからダメだと答えたのに使っちゃったの?」と。ですので、「引用」に当たると考えられる使い方であれば、許諾を求める必要はないと、私は考えています。
——引用ということがはっきり言える条件を押さえておきたいですね。
橋本 そうですね。すでにお伝えした要件に加えて、実は、出所を明示しない引用は刑事罰の対象になります。これは32条とは別の条文で書いてあるんです。ですので、出所は絶対に明示するようにしてください。
さらに、その出所の明示のしかたとして、例えば図録のように、最後のページに参考文献としてさりげなく小さく入っているだけだと危険なんです。引用したその場所・時に、誰の・何の・どこを引用したのか、しっかりわかるような形で出所を明示することをおすすめしています。
——つまり、何か引用したいと思ったら、とにかくまずは「出所明示」、そしてその「明瞭性」ですか?
橋本 ええ。あと、くり返しになりますが、引用は必ず説明の補足レベルにとどめること。それともうひとつ基本的には改変もしてはいけないんです(翻訳だけは法律上も可能です)。音楽だとちょっと考えにくいですけど、例えば文章の場合だと、要約して引用するのはOKだと言われていますが、それ以外の改変は認められません。
——わかります。新聞に書評を書いたりすると、担当者は、その原稿の中にもし引用があったとしたら、もとの本を調べて、改変していないかどうかを校正で必ずチェックしてくるのはそういう理由ですね。
橋本 おっしゃる通りです。
——ただ、あまりにも引用したい文章が長かった場合は、要約がOKだったことがあって、それも今おっしゃった通りですね。
橋本 要約して引用されても、権利者に与える負担が少ないんですよね。たくさん引用されるより、むしろ要約して引用されたほうがいい。ただ、その要約のしかたに主観が入ったりすると、トラブルになる可能性があるので、注意しましょう。