――エリオット・カーター(1908-2012)の「弦楽四重奏曲第5番」は、短い曲の連なりによってできています。その凝縮された美のあり方から想像して、ウェーベルンの先に位置する作曲家として、カーターを見なしてもいいのでしょうか?
A カーターの「弦楽四重奏曲第5番」は、12の短い楽章が連動しており、実に美しい。しかし、この曲は20世紀末のものであり、ウェーベルンよりはるかに進んでいますよ。
――ハリソン・バートウィッスル(1934-2022)の弦楽四重奏曲には「弦の木」という不思議なタイトルがついていますが、その意味は? この30分の神秘的な大曲には、どのような隠された物語があるのでしょうか?
A 「弦の木」はバートウィッスルの2つめの弦楽四重奏曲で、彼が1970年代と80年代初頭に住んでいたスコットランド西海岸沖のラッセイ島にインスピレーションを得ています。
何世紀にもわたるスコットランド長老派教会の禁止令により、この島に土着の音楽文化が残っていないことを知って彼は失望しましたが、いにしえの音楽の精神の残響はありました。「弦の木」で彼は、その音楽の精神を呼び出そうとしたのです。
演奏が禁止され、音楽が敵視される環境の中で、音楽はどのようにして生き延びられたのか? それは口伝に違いありません。ラッセイ島は、ゲール語の詩人、ソーリー・マクリーンの生まれ故郷でもあり、その風景はこの詩人を思い起させます。その詩「弦の木」が曲名の由来となりました。