――ヤニス・クセナキス(1922-2001)の「テトラス」には、グニャグニャしたノイズのような言葉のような音がたくさん出てきます。オーケストラ・プログラムで演奏される「ドクス・オーク」も同様で、とても自由で荒々しい印象を受けます。数学と科学と建築の人であったクセナキスから、なぜこのように野性的な音楽が生まれてくるのでしょうか。
A クセナキスが数学者だったからこそ、このような音楽を生み出す想像力があったのだと思います。彼と長年の友人だったからこそ分かります。
クセナキスはクラシック音楽の訓練の規範に縛られていませんでした。縛られていないという意味で、いかに野性的で自由な作品であるかが分かります。
――細川俊夫と西村 朗とは強固な信頼関係があるとのことですが、この2人の作曲家の音楽と人間性について、あなたの印象をお教えください。
A 細川俊夫とは、強い信頼関係で結ばれています。彼とは1982年にドイツのダルムシュタットで出会いました。多くの作品を私たちのために書いてもらっただけでなく、ずっとよい友人でした。彼の音楽はとても深みがあり、古来の日本に関連する部分が多い。彼は、“旧き”日本と、彼独自の洗練された新しい音楽のスタイルを完璧に融合させています。
西村 朗の音楽は、細川の音楽とはまったく異なり、エネルギッシュでとても律動的です。ゆえに、完璧なコントラストを形作っています。
私たちはよく、この2人の作曲家を1つのプログラムの中で組み合わせます。
西村はすべての弦楽四重奏曲を我々のために書いてくれて、私たちも彼に魅了されました。彼の弦楽四重奏曲のほとんどには神話が副次的な主題としてあります。
今回のコンサートのために、私は第5番の「シェーシャ」を選びました。「シェーシャ」はインドの神話に登場する、何千もの頭をもつ巨大な不死身の蛇の名前で、地中に棲み、大地を支えています。シェーシャの覚醒は、地球の覚醒を意味します。西村は、巳年生まれの私のために「蛇の形をしたお祝いの小さな音の指輪のようなものを贈りたかった」と言ってくれました。
残念ながら、アキラはもうこの世にいません……。