——モダン楽器のショパンコンクールと聴き比べてみると、楽器の音色、即興的なパッセージの挿入のほか、右手と左手をあえてズラしていたり、かなり違った点が聞こえてきます。このあたりに驚かれる方も多いと思うのですが。
川口 モダン楽器のものよりも自由な部分は多いかもしれません。実際に作曲家たちがどのように演奏していたかは本当の意味では誰にもわかりませんし、弾くたびに違った弾き方をしていたという記述も残っています。モダン楽器のショパンコンクールでは20世紀に作られたショパン演奏の規範を踏まえたうえで審査が行なわれている印象がありますが、ピリオド楽器のコンクールでは、そういうものを一度白紙に戻して、また違った見方で審査が行なわれていると思います。
——今回のようにさまざまな試みが取り入れられるようになったことは、モダン楽器のショパンコンクールにも影響してくると思いますか?
青柳 すでに2021年のコンクールも影響を受けていたと思いますよ。今回の結果などを踏まえて、もしかしたら“やりすぎ”と感じて抑える方もいるかもしれませんが、面白いからいろいろ試みてみたいと思う方もいるでしょう。このように演奏のありかたを考えなおす必要が出てきたことからも、今回のコンクールはショパン演奏に新たな道を切り拓くものだったと思いますね。
川口 実際に、少し前からモーツァルトなどでは繰り返しの際に即興的なパッセージを入れる方もいらっしゃいますよね。
すでに20世紀の時点で巨匠たちの演奏や録音物によって“作曲家像”というものが幅広く提示されているので、21世紀となったいま、既存の“作曲家像”をただなぞることを今日のピアニストが行なっていたとしたら、それは演奏芸術として創造的ではありません。今日20世紀の演奏スタイルを一度白紙にして、アカデミックかつクリエイティブに19世紀の演奏様式を探究することが広く広まることは大変意味のあることと思います。
今後、音楽史や演奏様式、楽器のことなどを探求したうえでそれを反映した素晴らしい演奏がどれほど出てくるだろう……と思うとワクワクしますし、私自身がそうあらねばならないと思っています。
後編でもさらに第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクールのお話を伺いながら、コンクールの楽しみ方やピリオド楽器の魅力を探っていく。
1989 年に岩手県盛岡市で生まれ、横浜で育つ。第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール第2位、ブルージュ国際古楽コンクール最高位。フィレンツェ五月音楽祭や「ショパン...
安川加壽子、ピエール・バルビゼの各氏に師事。フランス国立マルセイユ音楽院首席卒業、東京藝術大学大学院博士課程修了。武満徹・矢代秋雄・八村義夫作品を集めた『残酷なやさし...
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...