自分のキャパを「ちょっと」超えるようなことを常に続けていく

——私が山田さんに初めてインタビューしたのは、20112月にベルリン放送交響楽団を指揮してドイツ・デビューを飾った直後でした。2013年にこのオケとの演奏会が一度あり、それから11年もベルリンで山田さんが指揮するオーケストラ公演がなかった。

もちろんその間、モナコやバーミンガムで足場を築かれてきたわけですが、昨年(2024年)にベルリン・ドイツ交響楽団を指揮してフィルハーモニー・デビューを飾ると、今回のベルリン・フィル、そしてベルリン・ドイツ響の次期首席指揮者に決まるなど、怒涛のようにすごいことが押し寄せて、理解が追いついていません。

山田 いま若い優秀な指揮者がどんどん出てきていますが、僕はマイペースでやって来られたのがよかったのかなと思います。海外に出て15年になりますが、忙しい時はたくさんありましたが、そんなに生き急いだわけではないし、どうしてもこのオケを振りたいんだとガムシャラにやってきたわけでもない。

小澤征爾さんからいただいたアドバイスがあって、まず「忙し過ぎてはいけない」。つまり、勉強する時間を確保するということです。もうひとつは、「いい仕事をしなきゃいけない」。いいオーケストラやいいソリストと仕事をするのが大事ということですね。まさにそうだと思います。

自分を高めていくのって、だいぶ無理しちゃうとツケがくるんだけど、「ちょっとの無理を重ねていく」という言い方があるじゃないですか。自分のキャパを「ちょっと」超えるようなことを常に続けていく。

——同じことを野球のイチローさんも言っていますね。それは日々の過ごし方や楽譜との向き合い方なども含めて?

山田 小澤さんは毎日4〜5時間楽譜に向き合って、圧倒的な勉強量でしたよね。僕ももちろん楽譜を勉強するんですけど、他のこと、それこそ本を読んだり、映画やドラマを見たりする時間もすごく大事だと思っていて。武満徹さんなんて、年間300本以上映画を見ていたといいますよね。職業は作曲家なのに、映画評論家より見ていたのではというぐらい。それが面白いなと思って。

僕は楽譜だけ追っていても行き詰まっちゃうタイプ。美しい絵や映像を見ると、やはりイマジネーションが膨らんでいくし、音楽と映像がリンクする時がある。例えば、R・シュトラウスの「4つの最後の歌」を指揮するときは、映画『君に読む物語』(2004年)の冒頭ですごい夕日が映し出されるのですが、あの黄昏の感じと完璧にリンクします。

サン=サーンス「交響曲第3番『オルガン付き』」を指揮する山田和樹。オルガンはセバスティアン・ハインドル(2025年6月12日 ベルリン・フィルハーモニー )ⒸBettina Stoess