古美術商を営むかたわらアマチュアのピアニストとしても活動されている毛涯さんは、「ロシアはやっぱり音楽的な土壌は魅力的なところ」だと言う。街中で知り合った人と音楽を通じて交流が始まったり、古いけれど良質なピアノを無料で譲り受けたり、人と人とのつながりが刺激的・創造的なのだ。
毛涯さんによれば、古美術で特に面白いのは、文字がない時代のものなのだそうだ。科学にも宗教にも支配されていない。キリスト教以前のもの。そこには呪術的な思考によって作り出されたものが多いという。
最近、毛涯さんのギャラリーに再び足を運んだ。地中海文化圏から
有用性からは遥かに遠いこうした世界に目を向けることは、使える使えないという価値判断の現代社会に息が詰まっている私たちに、大切な何かを思い出させてくれる。
(林田直樹)