音楽の本質は光を引き立てる影を見つけること

第九はとにかく最初から魅力が溢れています。完全5度で鳴り渡る。そしてヴァイオリンがその5度と転回4度で間を縫うように動いていく。そこからも神秘です。ベートーヴェンが遠い世界にある“何か”を呼び覚ましたかったのではないかと思うのです。

僕は「炎のコバケン」と呼ばれるけれど、光と影で言うと影なのです。音楽の本質である影を見つけることが僕の仕事だと思っています。たとえば、前に押し出さなければいけない音が光で、その光を他の楽器がどう支えるのか。光を支える影こそが音楽の本質なのではないでしょうか。

だから第九を初めて聴く人でも、思わず涙が出そうになる瞬間に燃え盛る炎に到達できるように全員で試行錯誤しているわけです。第九を聴き終わって、「やっぱりまたコバケンを聴きに行きたいな」と思ってくれたら、それもまた光ですね。