五味 実は、絵本に物理的に足りないのが、音なんだよね。さらに言えば、匂い、手触り。で、絵本の勝負というのは、読んでいるうちに独特の音が聴こえてくる。独特の空気感がある、風が吹いてくる、香りがする。それを味わってもらえたら大成功。
絵は音を、音は絵を、無いものねだりをするムーブメント、内的な作業が喚起されるのが面白い。いい音楽って、いい風景が見えてくるよね。
樹原 たとえば「たんぽぽのたね とんでいく」という楽譜に五味さんの絵がついたら、わあ、本当にたんぽぽの種がフワ〜っとどこまでも広がって飛んでいく〜、という感じがして。
譜面台に楽譜を広げて弾くときに、音符だけだと、指が正しいかとか音が合ってるかということだけに気がいきそうですが、この絵が目に入ることによって、たんぽぽの種が飛んでいく広がりの中にいられる。弾かないで楽譜を眺めているときも、その景色の中にずっといられる。
日本中の子どもたちと同じ景色を共有しながら、ピアノの音を通して五味太郎さんの絵の中に一緒に住んでいられるという喜びが、今、とても大きくて。
ピアノを習うときに、正しく弾けるかどうかではなく、自分でいろんな喜びを発見しながら、音楽のルールを楽しくクリアしていってほしい、というのが私の願いなんです。