それでは、特権階級以外の一般の人々が、宮廷文化の中で育まれたオーケストラの登場する演奏会を聴く機会はなかったのか?
ないことはなかった。音楽家が、自らの新作を自身の指揮や演奏で聴かせ、会場や出演者の手配もすべておこない、チケットの販売も自ら手掛けるという、いわば手弁当のワンマンショー的な演奏会のスタイルの演奏会、通称「アカデミー」と呼ばれるものがそれである。
ベートーヴェン自身、「第九」を含む自作の交響曲については、すべてアカデミーで初演を行なった。しかも集客数が自分自身の収益に直結するという理由から、会場は専ら大人数を収容できる劇場だった。
つまり、劇場主催の公演がおこなわれない日に劇場を借り、ついでに劇場付属のオーケストラや合唱団、独唱にも出演をとりつけて、アカデミーが催されたのである。(劇場側にとっても、オフの日に貸館公演をおこなえればよい収入になるため、こうしたアカデミーは大歓迎だった)。