大きな曲、華やかなコンサートとして聴くピアノ協奏曲……ではなくて、耳を澄ませて聴く、親密な室内楽としてのピアノ協奏曲、をシフは目ざしている。そして実現した。シフ自身が呼びかけて結成したカペラ・アンドレア・バルカも、すでに演奏を重ねてきた。定評があるのはモーツァルトで、今回の来日公演でもモーツァルトのプログラムの日が用意されているが、そそられるのはバッハばかりのほうだ。モーツァルトは華やかなピアノ協奏曲のいわば創始者だが、バッハは違う。シフの求める親密な演奏がバッハに新しい風を吹き込むとしたら、きっと他に類のない体験ができる。
復活祭前に重量級の《パルジファル》が聴ける。長老ヤノフスキが指揮するワーグナーには、きっちり現代最高水準のワーグナー歌いが揃えられている。2010年の第1回東京・春・音楽祭でワーグナー・シリーズ第1弾として上演されたのが《パルジファル》で、2021年にも取り上げられているから、バイロイトならぬ東京でも、重要な演目というわけだ。今年の復活祭は4月20日だから、それまでにこの上演で身を清めておくのはどうだろう? 身を清めなくてもいい人は遠慮なく、音楽の美しさに酔うこともできる。1882年に初演されて以来、《パルジファル》の響きの美しさは世界を魅了してきた。ドビュッシーもシュトラウスも、大勢の音楽愛好家たちも。ヤノフスキとN響が神聖な響きをきっと実現させると信じよう。