《カルメン》はアンサンブルのオペラだった。そう感じられる珍しい上演が味わえた。「ハバネラ」や「セギディーリャ」や「闘牛士の歌」でなく、カルメンたち3人のカルタ占いや、密輸団のメンバーたちの五重唱が面白い上演だ。カルメンやホセやエスカミーリョたちが舞台を独占するのでなく、ドラマの中に溶け込んでいる。勢いのある演奏にまとめた指揮者デスピノーサのもと、人気ロックシンガーになったカルメンの死で終るオペラが、新たな衣裳をまとった。
楽しければいいのだ、とばかり元気に《ファルスタッフ》が騒動をくり広げた。ヴェルディの最高傑作、精緻な言葉と音楽の昇華、といったこのオペラが戴く冠に気圧されない。歌も舞台も、字幕だってこわいもの知らずだ。歌手は皆客席を向いてしっかり歌を届け、ドラマが足りなければ補助の人物が動き回ってなんとかする。文字通り舞台の真ん中の高みに登場するのはファルスタッフに決っている。上江隼人はついにヴェルディ・バリトンとしての到達点に達した。藤原歌劇団は90歳を迎えてなお、若い。