——声や体に変化を感じた経験はありますか。
森: 変化はつねに感じていますが、とくに印象的だったのは30代でしょうか。それまでは声量や高音の伸びを重視して、レッジェーロというソプラノのもっとも軽い種類の声質に合う作品を歌うことを心がけていました。
ところが、《椿姫》のようなドラマティックな役に挑戦する中で、感情を体全体で表現することの難しさと大切さを知りました。
その頃から、少しずつですが、声に以前にはなかった深みや陰影を加えて歌えるようになってきたと感じています。
また、出産して母になるということも、声の深みや丸みを感じるきっかけになったかもしれません。それまでは自分の歌を上達させることなどで頭がいっぱいでしたが、守るべき存在が現れて、身体的にも考え方にも大きく影響しました。
声の成長も、まるでワインが熟成するように、少しずつ変化していきます。年を重ね、さまざまな公演や役柄を歌い、学ぶことに加えて、日々の人生を一生懸命に歩むことで味わいを増していくのだと実感しています。
——森さんが舞台に立ち続ける中で、「身体との付き合い方」で大切にしてきたことは何ですか。
森: もっとも大切にしてきたのは、喉の調子を正しく感じるための体との対話です。調子に乗って歌いすぎて、本番で思ったように歌えないということが起きないように、日々のコンディションを細かく観察して、小さな変化も見逃さないように心がけています。
無理をしすぎず、甘やかさない。そして、いつもしっかりとよい発声に則って歌う。この絶妙なバランスを見つけることが、長く歌い続ける秘訣だと感じています。
そして、不調を感じたら無理をせず、負担をかけすぎないようにする、または立ち止まって休むことも重要だと学びました。これはプロとして、自分をつねに最高の状態に保つための責任だと考えています。
——不調を感じたときは、どう対処していますか。
森: まずは「なぜ調子が悪いのか」を考えます。無理をしたのか、睡眠不足なのか、ストレスなのか……。その上で、ネギや生姜、大根などを使った温かい食事をとったり、栄養と休養を意識して過ごしたりします。
普段はそれで治ることが多いのですが、どうしても回復しないときは、迷わずお医者さんに行きます。
声帯は自分では見ることができないので、「ちょっとおかしいな」という段階で診てもらうように気をつけています。先生から「大丈夫」と言われたらより安心して歌えますし、ダメな時は勇気を持ってお休みして、しっかり早く治すことに専念しています。
——最近の悩みは何ですか。
森: ほんとうに痩せづらくなりました。平日は大学に教えに行くことが多いので、お昼を食べそびれて、ついお菓子を食べてしまうんです(笑)。そういうのはよくないのはわかっているのに……。夜もついつい、お酒を飲みながら食べてしまう。食べ終わってから、「またやっちゃった」と反省して、それの繰り返しです。