――マルセルさんは、日本とフランスで勉強したそうですが、マルセルさんのピアノを拝聴し、ペダルの表現や音の質感など、ロシアの音楽家のような表現を感じました。
M レナ・シェレシェフスカヤ先生はロシア系ですので、その影響は大きいと思います。10年ほど、彼女のもとで勉強しています。
――シェレシェフスカヤ先生のお弟子さんには、アレクサンドル・カントロフやリュカ・ドゥバルグなど、すぐれたピアニストが多くいます。指導についてはいかがですか。
M とても細かいです。そして何よりも自分のやりたい音楽を一緒に作っていくようなレッスンです。愛情深い先生です。
先生のお宅の中庭には、さくらんぼの木があります。レッスンにうかがった時、僕は少し疲れた顔をしていたようで、先生から「さくらんぼの実を食べてきなさい」と言われました(笑)。それから、ラモーの《鳥のさえずり》という曲をレッスンで見ていただいていた時のことです。鳥について、僕はきれいな鳥のイメージを持っていたのですが、先生にとってはその庭のさくらんぼを食べに来るいじわるな鳥なのです(笑)。そういう私生活の部分から学ぶことも多くあります。
――8歳で本格的にピアノに取り組むようになり、高校卒業後にフランスへ留学されました。フランスを留学先に選んだ理由を教えてください。
M 大きな理由のひとつは、母親がフランス人ということです。地元の愛知から、東京で勉強するかどうか悩みましたが、やはりオリヴィエ・ギャルドン先生のもとで学びたい気持ちが強く、フランスへ渡りました。
――ご自宅では、日本語で会話をされるのですか?
M 父とは日本語で、母とはフランス語で話します。
――ものを考えるときは?
M 日本語です。でも、例えば、日本人のいない講習会へ行くと、フランス語で考えるようになりかけます。