毎日、子どもたちや音大生、プロのオペラ歌手のレッスンを隣の部屋で聴いているうちに、特別な訓練をせずとも、自然と「絶対音感」が身についたんです。「ついた」というより、みんなもそう聞こえているものだと思ってた。小学校に上がるころには、「ド」の音は「ド」にしか聞こえない。赤いものが赤く見えるのと同じような感じで、音の高さが音名に結びつくんです。逆に同級生たちにはわからないことが驚きでした。
日常でも、父のレッスンを受けている生徒さんの歌声を聴きながら、「今の音、“ソ”がちょっと低いな」とか、自然に感じてしまう。周りの大人たちには「何の音かわかってすごいね」とよく言われたけれど、僕にとってはそれが普通のことでした。
あと当時はよく、家にあったポータブルカセットデッキに好きな歌やナレーションを録音してひとりで遊んでいました。カチャッとやって好きな歌を歌ったり、その歌の解説をしたり、得意だった口笛を吹いたり。みんなが「なんとかレンジャー」とかのアニソンを歌っているときに、僕はマーラーの《大地の歌》を歌ってはしゃいでましたね(笑)。
ホームレッスンの音の邪魔にならないよう、家ではテレビはあまりつけず、子ども用の音楽もほとんど聴かない生活。そんな僕に「クラシック音楽」という概念はなく、「音楽」そのものでした。
マーラー:《大地の歌》