気軽に受けたオーディションで人生が一変!

そんななか、藝大のコレペティトールの先生から連絡があったんです。大手レコード会社でいわゆる「和製イル・ディーヴォ」を作る企画が進行中で、テノールの最終募集があるから推薦してもいいかと。ただし、オーディションは今週という急な話でした(笑)。当時、僕は平日は書店で働き、土日はブライダルの聖歌隊でザ・リッツ・カールトン東京や東京ディズニシー・ホテルミラコスタ等のチャペルで歌っていたので、その延長線上のアルバイトのような感覚でオーディションを受けに行ったんです。

オーディションではヘッドホンやマイクを使って歌うのも初めてで、課題曲のポップスも初体験。クラシック出身の僕は譜面通りに歌いますけど、ポップス出身の候補者たちは楽譜に書いてあるメロディを即興で自由に変えて歌ったり、歌わないはずの「間奏」部分でめちゃくちゃ歌うんですよ。日本語歌詞を自分で英単語に置き変えて自由にフェイクを入れたり、その自由な発想にはカルチャーショックを受けました。

一方、僕はテノール歌手として、一切ブレずに全力でクラシカルにポップスを歌い切りました。そして歌い終わった瞬間、審査員が「こういう人を探していたんだ」とばかりに拍手してくれて、満場一致で合格しました。