帰国後、オーディションはピアノから始まりました。どんなに歌えてもピアノが弾けなければダメ。来日した演出家・ジョナサン・ケントさんや、本作の音楽スタッフでもあり、あのレ・ミゼラブルやミス・サイゴンの作曲家でもあるクロード=ミシェル・シェーンベルクさんの前でピアノを弾き、歌のオーディションでは彼に伴奏をしてもらうという、今では考えられない贅沢な機会でした。最後に芝居のオーディションを経て、無事に役をいただきました。そして長い稽古期間を経て、いざ舞台へ!
でも、待っていたのはシングルキャストで48公演という、約2か月の超ロングラン。オペラでは2~3回の公演が普通だった僕にとって、1日2回公演もあるこのスケジュールは未知の世界。ワイヤレスマイクで芝居をするのも初めてで、ついオペラの癖で前を向いて喋ってしまったり、声量の調整に苦労したり。今思えば、オペラの固定観念を一つずつ削ぎ落としていく作業でしたね。
そして、『マルグリット』の開幕直前、ホリプロから正式に所属の話をいただきました。でも、クラシックや「ESCOLTA」の活動もしたかったので、その2つを続けることを条件に契約したんです。
次に出演したのは、東宝の『ブラッド・ブラザーズ』でした。ただ、ミュージカルの仕事が増えても、最初の数年間は「自分は歌手であって俳優ではない」という意識が強かったんですよね。メディアで「ミュージカル俳優」と紹介されることにも違和感を感じたし、役者と呼ばれることに戸惑いを感じていました。