——『エリザベート』といえば、クンツェ&リーヴァイコンビによる極上の音楽。井上さんはこの作品がミュージカルデビューですが、初めて楽曲を聴いた時のご感想は?
井上 やっぱり、「私だけに」がすごくいいなと思って、家で勉強したことがあります。宝塚版のDVDを買って。この曲って前奏はシンプル極まりないんです。
田代 (前奏を歌いながら)ターンターンターンターン……って。シシィの心音だとリーヴァイさんが仰っていました。
井上 あれほどシンプルな前奏で始める作曲家の自信と、そこからの駆け上がり方のすごさ。実際、大変なナンバーだけど、だからこそ名曲だし、作品にとってシンボリックな楽曲があるというのは大きいと思います。
——お二人が思う、『エリザベート』の音楽の魅力とは?
井上 音楽はクラシックがベースだとは思うのですが、リーヴァイさんがハリウッドで活躍されていたこともあって、ポップスやロックの要素も組み込まれています。
そしてフランツにはクラシック、トートやルキーニにはロックとポップスというふうに、キャラクターごとにある音楽のジャンルを割り当てられ、そこに重厚なオーケストラが加わる。これは他のミュージカル作品にはあまりない手法で、この作品を唯一無二な存在にしていると思う。
田代 加えて、リプライズがいっぱいある。そのモチーフを歌う役柄やその状況によって、そのメロディが何度でもまったく違う色で生まれ変わります。
井上 最初、クンツェさんたちは『レ・ミゼラブル』の影響を受けていて、「自分たちもそういう作品を」という想いがあったらしい。だからやっぱり、ロイドウェバー(『オペラ座の怪人』)やシェーンブルク(『レミゼラブル』)の流れは汲んでいると思う。
でも、『エリザベート』が生まれたウィーンは、クラシック音楽の聖地だから、ただマネをしているのではなく、その国の歴史を、自分たちの音楽で、しかも今の音楽まで使って作りあげたところが、『エリザベート』を特別な作品にしたんじゃないかなと。
あと、リーヴァイさんはハンガリー出身ということもあって、音楽にちょっとアジア寄りのテイストがあるんです。なかには「演歌」みたいな旋律もある。そこが僕たち日本人やアジアの観客の心に訴えるんだと思います。