感情を全開する「最後のダンス」

——名曲ぞろいの『エリザベート』の中で、ズバリお二人が一番好きな楽曲は?

井上 トートとしては、やっぱり「最後のダンス」ですね。あんなに感情を誰かにぶつけていい瞬間って、人生でそうそうないし、最初に歌稽古をしたときは「自分にもこんなに激しい思いがあるんだ」と驚いたというか、僕のSっ気を目覚めさせる(笑)。普段は人に向けてはいけない感情をこれほど全開できるのは、ミュージカルの醍醐味です。

田代 僕が大好きなのはオープニングの「我ら息絶えし者ども」。各登場人物が複雑に絡み合い、大合唱で「エリザベート!」と繰り返すナンバーで、何回聴いても「これから始まるぞ」という気持ちになりますし、見事にこの作品の魅力を一曲で体現していると思います。

フランツの曲だとやはり2幕の、「夜のボート」です。同じ旋律の楽曲「あなたが側にいれば」が1幕にあるのですが、実は若いときの歌のほうがキーが低くて、晩年の「夜のボート」のほうが高い。普通なら逆なので、より情熱的になっているんだなと思って歌っています。

「最後のダンス」、「プロローグ」、「夜のボート」

井上 ちなみに歌の難易度だと、僕はトートより、最初に演じたルドルフのほうが難しかった。特に「闇が広がる」は本当に苦しいと思いながら歌っていたから。でも、それが役の心情と合ってるし、頑張ったぶん、それに応える力を持っている楽曲でもあり、今もコンサートでこの曲を歌うと謎の盛り上がりを見せるんです。結局、『エリザベート』は、クンツェさんとリーヴァイさんの才能がすごいということに尽きるんだよね。

田代 今回、芳雄さんと『エリザベート』についてたくさんお話しできたことに感謝しています。もうすぐ始まる舞台も、新しくてフレッシュな二人のシシィとベテランの3人のトートという組み合わせを僕自身も楽しみにしています。25周年を迎える『エリザベート』に、どうぞご期待ください。

二人の出会いや藝大時代、ミュージカル界の未来について語り合う後編(10月11日公開)に続く

出演情報
ミュージカル『エリザベート』

【東京公演】
日程 2025年10月10日(金)~11月29日(土)
会場: 東急シアターオーブ 

【札幌公演】
日程: 2025年12月9日(火)~18日(木)
会場: 札幌文化芸術劇場 hitaru

【大阪公演】
日程: 2025年12月29日(月)〜2026年1月10日(土)
会場: 梅田芸術劇場 メインホール

【福岡公演】
日程: 2026年1月19日(月)~31日(土)
会場: 博多座

出演:

エリザベート(ダブルキャスト) 望海風斗/明日海りお 

トート(トリプルキャスト) 古川雄大/井上芳雄(東京公演のみ)/山崎育三郎(北海道・大阪・ 福岡公演のみ) 

フランツ・ヨーゼフ(ダブルキャスト) 田代万里生/佐藤隆紀 

ルドルフ(ダブルキャスト) 伊藤あさひ/中桐聖弥 

ルドヴィカ/マダム・ヴォルフ 未来優希 

ゾフィー(ダブルキャスト) 涼風真世/香寿たつき 

ルイジ・ルキーニ(ダブルキャスト) 尾上松也/黒羽麻璃央

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田代万里生
田代万里生 ミュージカル俳優

東京藝術大学音楽学部声楽科テノール専攻卒業。3歳からピアノを学び、7歳でヴァイオリン、13歳でトランペットを始め、15歳からテノール歌手の父より本格的に声楽を学ぶ。1...

取材・文
弓山なおみ
取材・文
弓山なおみ ライター/コラムニスト

フランス留学後、ファッション誌『エル・ジャポン』編集部に入社。その後『ハーパース バザー』を経て、『エル・ジャポン』に復帰。カルチャー・ディレクターとして、長年、映画...