クラシック出身のミュージカル俳優あるある

——藝大の声楽科からミュージカル界への道のりで印象に残ったことは?

井上 僕自身、歌の面では今もこの世界の歌い方に適応できているかわからないんです。最初に舞台に出たときも、「オペラみたいな歌い方だ」と、先生だけではなくて、お客さまからもよく言われていました。そもそもマイクなしで歌うために生まれたクラシックの発声と、マイク前提のポップスからきているミュージカルとでは根本が違うんですよね。それで、本当にいろんなご指摘をいただいて、少しずつこの業界の歌い方に順応していった感じです。

でも、今でも自分は声を出し過ぎてるなと感じています。クラシック出身の特徴かもしれませんが、声量を出すのがいいことだと思っているところもあって。だから、今も自分はそこの意識を変えたり、更新していかないといけないなと感じますね。

田代 クラシックの場合は生声なため、非日常的な発声がある意味必要なのですが、ミュージカルの場合はマイクがあるので、日常的で自然な声を求められるんです。どちらかというと、しゃべっている声のまま歌えるのがベストとされるので、クラシック出身者は、そこの差を埋める必要がある。ただ、音楽ってお芝居や言葉のすべてを超越する瞬間があるので、そういうときはクラシックで学んだことが最大限活かされるとこともあります。

井上 たしかに、そうかもしれない。

田代 僕は以前、『エリザベート』のルドルフ役のときの忘れられないエピソードがあります。フルオーダーメイドの美しい軍服を着て、ちゃんと歌っていたら、演出家の小池(修一郎)先生に、「歌は素晴らしいけど、その腹式呼吸をどうにかして!」とダメ出しされたんです。「軍服のお腹がポコポコ動くのが気になるから」って(笑)。腹式呼吸がダメという意味ではなく、横隔膜の動きを目立たないようにしてほしいということでした。歌に対しても非常に厳しい先生なのですが、そこまで極めるのか! という究極の美学を追求する先生の言葉に、衝撃を受けました。