田代 児玉さんのプロフィールではセルゲイ・ナカリャコフにも学んだと書かれているけれど、僕がトランペットを始めた頃、ちょうどナカリャコフが15歳でCDをリリースして、爆発的人気を博していたんですよね。モーリス・アンドレとは違った切り口で、トランペットってカッコいい、トランペッターってカッコいいということを僕に示してくれた人です。
児玉 ナカリャコフは、できない人の気持ちがあんまりわからないっていうか(笑)。初歩的なレベルの人にも、高いレベルの人にも同じようなレッスンをするところがありますね。僕も彼のレッスンによって、劇的に演奏が変わるきっかけになりました。
田代 どういうところが変わったの?
児玉 それまではけっこう自分に酔っていたというか、人から表現がすごいねと言われて気持ちよくなっちゃって、不必要な表現をしているところがあったんですが、そのことをナカリャコフに何回も何回も指摘されて、すごく考えるようになりました。
田代 それは児玉さんのリサイタルでもCDを聴いていても思ったんだけど、15歳や16歳とは思えない冷静さというか、感情過多でなく、余計な部分を削ぎ落とした音楽の表現を実現しているのが印象的でした。変な欲は必要ないんだということに気付かされた。

児玉 自分のカラーを出しすぎてしまうと、作曲家が思い描いていた音楽にはならないので、そこはとても気をつけるようにしています。もちろん、何を吹いてもその人の音楽になるっていうのも素晴らしいんですけれど。
田代 役者も両方あるんだよね。どんな役を演じてもいい意味でその人っていう役者もいるし、その役ごとにガラッと表現が変わるカメレオン俳優みたいな人もいる。
児玉 僕は将来オーケストラにも入りたいと思っているのですが、いろいろな作曲家の作品を、しかもアンサンブルで作っていくのがオーケストラなので、田代さんにそう言っていただけてとても嬉しいです。