田代 作品についていうと、最近ブロードウェイやウエストエンドで生まれている新作ミュージカルは、どんどんクラシカルな発声だけではなくなってきている気がします。日本でも、かつて昭和の歌謡曲を歌う男性は低い声の人が多かったですが、平成に入ってどんどん地声が高くなってきて、今ではMrs.GREEN APPLEなんか信じられないほど超高音のファルセット(裏声で発声する唱法)だけで歌ったりもしていますよね。
新作ミュージカルは、電子楽器の発達やジャンルとしてもロックやポップをもはみ出すような多様化したテイストが増え、そういうファルセットやトワング(鼻腔共鳴を強めた発声)などを使う曲が多くて、逆にロイド=ウェーバーとかソンドハイムが目指したクラシカルな発声だけでは対応できない作品や役柄、幅広い音域が求められています。
千住 それは『ウィキッド』あたりからの傾向じゃないかな。
田代 そうですね。そのあたりの時代が、新しい舞台音楽の転換期なのかもしれません。とはいえ、どのダンスもバレエが基礎となるように、どんな音楽ジャンルが生まれても、クラシックは切っても切り離せない、最重要な基礎技術です。
千住 それと演奏家にどんどんお金を使わなくなっていますよね。オーケストラじゃなくてバンドでできちゃうし、コスト削減でシンセを使い、さらにはカラオケ音源だけとかね。

田代 たしかに技術が発達しているのでできちゃうんですけど、やっぱり人がその場で生み出すアコースティックな音があるかないか、というのは全然違うと思います。役者としても、生の音の振動やそのときにしか生まれない揺らぎを感じながら演じるほうが感情移入しやすいですし、演技にも良い影響があるのではないでしょうか。