バッハの《マタイ》と《ヨハネ》は、いずれも、バッハがライプツィヒで「聖トーマス教会カントール」(ライプツィヒ市の音楽界のトップに当たる地位)を務めていた時に生まれた。
《ヨハネ》は1724年の聖金曜日に聖ニコライ教会で、《マタイ》は1727年の聖金曜日に聖トーマス教会で初演されている。
だが同じ 「受難」をテーマにしていても、2作から受ける印象はかなり違う。そもそも長さが違うのだ。《ヨハネ》は全40曲で2時間足らずで終わるが、《マタイ》は68曲。3時間をゆうに超える。
なぜ、2作はこれほどまでに違うのだろうか。
最大の理由は「福音書が違うから」。福音書のキリストの受難に関する記事は、《ヨハネ》ではキリストが捕えられるところから始まるが、《マタイ》では、イエスの受難が予言されるところから始まり、「最後の晩餐」や、受難を前にしたイエスが悩むシーンなども入るので、テクストの長さが全然違うのである。