私が意識してプレスラーさんを追いかけ始めたのは、彼が創設して半世紀以上活躍したピアノ三重奏団ボザール・トリオを解散し、再びソリストとして活動を始めたころでしたから、彼の70年を超えるプロフェッショナル人生のほんの数年間ということになります。
そのころ彼はマスタークラスの講師として、またソリストとして世界各国から招聘される超一流の音楽家で、しかもすでに90歳を超えていたにもかかわらず、若かりし頃と変わらず世界中を精力的に旅していました。
私がプレスラーさんに興味を持ったきっかけは、拙訳書『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン:音楽界の至宝が語る、芸術的な演奏へのヒント』のあとがきにも書きましたが、我が師が「途方もないピアニズムを聴き、今もその響きが頭から離れない」と興奮気味に語ってくれたからです。
その後、可能な限り彼の音源を聴き、彼について調べ、そして彼が作り出す多彩な響き、弦楽器のように紡ぎ出されるなめらかなフレーズ、膨大なレパートリー経験と深い洞察に支えられた音楽の構築美の虜になりました。