ミニマル・ミュージックを象徴する作品《インC》

学生時代からヤングと親しかったテリー・ライリーは、《インC》(1964)というミニマル・ミュージックを象徴するような作品を生み出しました。

53個の短いシンプルな音型を繰り返しながら番号順に演奏していく作品で、何回繰り返すかは演奏者に任されています。つまりある種の即興性が織り込まれた音楽で、演奏者たちは微妙にずれながら相前後して音型を演奏していきます。

ピアノの高音のド、もしくはマレット打楽器(※)でパルス音が一貫して鳴らされ、演奏者はこれに合わせて演奏するので、ずれていても全体はまとまって進んでいくことができます。

「反復」と「パルス音」がこの曲の特徴となっていますが、その点ではヤングの長く延ばされる音とは対照的です。民族楽器を含めてどの楽器でも、また声でも演奏でき、子どもから大人まで誰でも参加できることから、もっとも広く親しまれているミニマル音楽作品となっています。

※マレット打楽器とは…いわゆる「木琴」「鉄琴」のように木や金属の板を鍵盤のように並べた打楽器のこと

テリー・ライリー《インC》

スティーヴ・ライヒが取り入れた「フェイズ(位相)のずれ」

スティーヴ・ライヒは、カリフォルニアでこの《インC》の初演に参加しています。ライリーがパルス音を取り入れたのは、ライヒの助言によるようです。ライヒは、このあとニューヨークに戻り、テープ音楽作品(※)を制作し、その経験をもとに《ピアノ・フェイズ》(1967)《ヴァイオリン・フェイズ》(1967)といったフェイズ(位相)のずれにもとづく作品をつくります。

《ピアノ・フェイズ》では、2台のピアノがパターンをユニゾンで繰り返しますが、一定回数の反復を終えると、第2ピアノがわずかに速度をあげて16分音符1個分だけ前に出ます。続けて反復を繰り返しながら徐々にフェイズをずらしていき、2台の楽器がまたユニゾンに戻るまで続けていきます。

ここでわずかずつ、ゆっくりと徐々にずれていくプロセスを、ライヒは「波打ち際に立って、波がしだいに足を埋めていくのを見たり、感じたり、聞いたりする」ことに似ていると言っています。あるいは「砂時計をひっくり返して、砂がゆっくりと底に落ちていくのを見ること」にも例えています。

徐々に時間が動いていくこうしたプロセスは、それまでの音楽にはなかったものです。またパターンが反復されながらずれがしだいに大きくなっていくと、譜面には書かれていないパターンが突然現れ、予想外の音型が聞こえてきたりもします。

見た目には単純な音型が、複雑な響きと豊かな聴取体験を生むことになるのです。

※テープ音楽作品…同じ音源を2台のテープ・レコーダーで同時に再生し、次第に生じてくるずれを生かしてつくられた《イッツ・ゴナ・レイン》(1965)と《カム・アウト》(1966)。

スティーヴ・ライヒ《ピアノ・フェイズ》