フィリップ・グラスは、インド音楽との出会いをきっかけとして、独自のスタイルを編み出しました。「ターラ」と呼ばれるインド音楽のリズムのシステムを参考にして、拍数を加えたり減らしたりする手法を考案したのです。
《2ページ》という作品では、たった5個のピッチ(音高)と8分音符のリズムで、小さな音の細胞が増減を繰り返して、始まりも終わりもないような音楽をつくり出していきます。
フィリップ・グラス《2ページ》
こうした初期の試みを展開させたのちに、グラスは演出家のロバート・ウィルソンとの共同作業により、はじめてのオペラ《浜辺のアインシュタイン》(1975)を実現します。
ほとんど物語的な構造を持たないこの作品は、まさにグラス独自のスタイルが投影された、ミニマル・オペラの金字塔とも言える作品です。
4幕で構成されるこのオペラは、増減を繰り返すリズム・パターンと短い旋律モティーフ、シンプルな和声によって5時間以上にわたって進行し、果てしない異次元の空間を出現させます。
このようにミニマル・ミュージックは、長く引き延ばされた持続音、短い音型の反復、規則的なパルス音、フェイズのずれなどを特徴とする音楽ですが、音楽の形式も従来の形式とはまったく違っています。
ソナタ形式のように、テーマが展開してクライマックスへと盛り上がり、最後にまたテーマが戻ってエンディングを迎えるような形式ではなくて、最初から最後までスタティックに、またエンドレスに進行し、劇的な要素を避けたクールな表現形式をとっています。
こうした音楽は、音そのものを感覚的にとらえ、音のプロセスを体験する新しい聴取のあり方をもたらしました。