対談や、対談者との共演で表現の幅が広がった

――対談や対談ゲストとの共演を通じて、ご自身が音楽家として変わったなと感じた部分はありましたか?

宮田 文楽人形遣いの桐竹勘十郎さんが対談で「演奏会が発表会にならないように」とおっしゃっていて、本当にそうだなと思いました。

演奏しているときに、いい音が出ているな、いい演奏をしているなと思うときは、実はいい演奏じゃなかったりするんです。感じて演奏しないといけないところを、考えて演奏している時に、良くないと感じることがあります。

考えて演奏している時は、頭のなかで言語化できてしまっている証拠で、前へ前へと音楽が進んでいくというよりは、そう思ってしまった瞬間、じつは自分でストップをかけてしまっているのだと思うんです。

演奏し終わったときに自分がどう演奏したか覚えていないときのほうが、いい演奏ができていることが多いです。でも、そうするとちょっと不安になって、聴いてくださった知人に感想を聞いてまわります(笑)。

――宮田さんは、演奏されるときにストーリーを感じながら演奏されると、この対談でもよくおっしゃっていましたね。

宮田 同じ曲でも、そのときによって違いますが、たとえばJ.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲第1番」プレリュードの有名なフレーズを、平和の象徴としてハトが青空を飛んでいくイメージで今日は演奏しよう、清々しい青空で、キリっと冷えた冬の空気を想像しながら弾きはじめるつもりでいたとします。

でも、いざ舞台に立ってみると、1曲目で、お客様の気持ちがまだ温まっていないなと思ったら、その青空に暗雲が立ち込めた感じからはじめて、プレリュードの最後のところで、その雲がはけて青空が見えてくるというストーリーに変えてみる、といった感じでイメージを膨らませています。

お客様の反応や、どういう照明かによってもそのイメージは変わりますね。