両国における「言葉」「議論」の文化の違い

船越 私はフランスの滞在年数が長くなるほどに、両国の間にある溝の深さを感じています。文化の違いや多様性を受け入れることの大切さを頭では理解しても、その背景まで踏み込んで理解することは難しく、またその努力ができる人は少数派だと思うのです。水林さんはフランス人たちとの関わり合いの中で、どのような発見があったのでしょう?

水林 それこそ優に1冊の本に値することで一言では語れませんが、1つだけ例をあげましょう。

日本の書店は「本を売るところ」ですが、フランスで書店を個人で経営する人々は皆、自身が熱烈な読書家なのです。限られたスペースに吟味した良書を揃え、お客さんと会話し、本を推薦するという交流の場の担い手です。

またどんなに小さくても、非常に多くの書店が作家を囲む討論会を企画します。僕は数々の書店のイベントに招待され、自分の著書に関して読者の方々とのディスカッションを経験しました。熱血討論になることもしばしばです。生活の中で書物が占める位置が全然違うと感じました。

船越  そう言えば、だいぶ前ですがフランスの文化相がノーベル文学賞を授与されたばかりの仏人作家の作品について質問されて、そのタイトルを一つも挙げることができず、「忙しくて読書をする時間がない」と答えて世論の顰蹙を買ったことがありましたね。コロナ禍のロックダウンのときも、本を生活必需品とし、書店に営業許可を与えるべきという声があがりました。

水林  そして実際にそうなりましたね。「言葉」の持つ力や重みが、そうさせるのでしょうか。

本に囲まれた書斎にて、執筆の合間にハンモック椅子で一休み。