7. もっとも衝撃を受けたコンサートは?
服部 コンサートを聴きに行くと、価値観をすごく刺激されるし、逆にその人が展開している世界観を見ると自分が何をやっているかわかることもあります。人のステージって私は色が見えるんです。エネルギーの量や流れ方と、その人特有の色を感じるから、出演者の色のステージになっていて、どれもスペシャルに見えるんですよ。全部が玉手箱みたいな感じで魅力的に映っているから、どのコンサートがいちばん良いとか悪いとかではなく、全部特別で面白いです。すごくカラフルなんですよね。
8. いちばんの思い出の曲は?
服部 好きな曲は数年かけて自分のベストが出るまでずーっと弾き続けたいタイプなので、何度も何度も同じコンチェルトやソナタを弾きます。だから、弾いた回数が多い曲ほど思い出が増えていきます。
それでいうと、プロコフィエフの「ヴァイオリン協奏曲第1番」、プロコフィエフの「ヴァイオリン・ソナタ第1番」、ショスタコーヴィチの協奏曲の1番と2番ですね。
あとは小品ではワックスマンの《カルメン・ファンタジー》。サン=サーンスは言わずもがな、初めてオーケストラと弾いた曲でもあるので思い出深いんですけど、ワックスマンはサン=サーンスの次にハマった曲でした。最初は耳コピで覚えちゃって、でも日本であまり出回ってなかったので譜面がなくて、2009年頃でしたが、海外に問い合わせて取り寄せなきゃいけなかったんですよね。それで楽譜が来るまでに、一通り覚えて弾き始めてしまって、届いてから答え合わせみたいな感じでした。あ、ここ音間違ってたね、みたいな(笑)。
ワックスマン:《カルメン・ファンタジー》、ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番
9. いちばんおもしろかった共演者は?
服部 舞台上で音楽をやっているときの印象だと、いちばん面白かったのは、井上道義さんですね。あとは、ファジル・サイかな。
音楽を本気でやるとなったら、その人の本質的な考え方が透けて見えちゃうし、自分もそれをさらけ出すことにもなります。1曲コンチェルトを一緒に演奏して、それを突き詰めたときには、その人との関係も突き詰まっているんですよ。だからそういう意味で、もうちょっと距離があったほうが“いい人”の印象で終われたのに、曲の力で距離が縮まっちゃったみたいなこともあります。良くも悪くもすごく濃密なので。みんなすごく個性的な人ばっかりなので、面白いです。演奏を通しての人間関係は、楽屋でちょっと話して楽しかったとか、そういうのとは濃さが違うんですよね。
——井上道義さんの面白さはどのようなところですか?
服部 忖度や遠慮のような、ある意味日本人の美徳とされている相手を気遣って察するようなことを、先生はステージの上でまったくしない。言葉ではなくて音を介して仕掛ける、それから仕掛けられたらやり返すみたいな、とても強烈なアプローチでジャブを打って下さったんですよね。最初に共演したときには、これだけリミッターを外してもOKなんだって思えて、すごく安心感がありました。だったら自分もいけるところまでの表現をこの人に投げたいと思わせてもらえた初めての指揮者だったと思います。
10. 共演してみたい人は?
服部 客観的な印象と、実際に一緒に演奏してみたときの印象っていつも全然違うんですよね。共演してみないとその人がどういう人なのかが全然わからないから、こういうイメージだからやってみたいっていうのはあんまりないんです。ご縁があって何かの引き合わせで同じ場を共にすることになったら、その人自身のこととその人の音から出るその人のエネルギーみたいなものを全力で私が感じたいなと思います。
過去に共演したことある方ともう一度共演したいっていうのは……ファジルとまたやりたいです。めちゃくちゃ楽しかったので。とにかく音が本当に生き生きしている人だと思っています。
11. 憧れの音楽家は?
服部 ブロン先生はもちろんずっと憧れていますし、あとはやっぱり、オイストラフ、ロストロポーヴィチ、リヒテルの3人組ですね。
ブロン先生はオイストラフの孫弟子だから、ブロン先生から教わることには、オイストラフ・メソッドも入っています。オイストラフの指使いを教えてもらったり、オイストラフが言ったことを伝言してもらったり、先生から聞くオイストラフの話も多い。そして、母がオイストラフ大好き人間だったから、小さい頃からオイストラフの音源を聴いて育ってたんです。どんな技術でも余裕を持った豊かな音でこなしてしまうし、とにかく音も弾き方も綺麗なんですよね。全部自然だから、何も無理していないのに、すごいことをやっちゃってる。言語化するのは難しいんですけど、オイストラフは永遠のスターだなと思います。死んだら挨拶に行きたいです(笑)。
12. 音楽家になると決めた瞬間は?
服部 6歳でヴァイオリンかバレエを選んだときは、イコール音楽家になると決めたわけではなかったんですよね。長期的に人生を考えているわけではなく、どっちが今好き?みたいな感覚で選んだはずです。
8歳でブロン先生に出会って、そこからずっとくっついて歩いてレッスンを受けていって、そこでブロン先生に「君がここから長期的にディベロップしていくために、今これを教える」とか「今君がやらなきゃならないことはこれなんだよ」と言ってもらったときに初めて、「あぁ、私はこれからヴァイオリンを持って成長していくんだ」みたいに思いました。
コンクールやリサイタルも先生が決めて、先の目標に向けて逆算して、今これをやっていこうみたいな。当時9〜10歳だったので、わりと素直に「そうなんですか、わかりました」みたいな感じで。先生は長期的に私が大人になっていくまでの成長をイメージしてるんだなって感じたので、素直にそこに乗っかったって感じです。