評価が180度変わる体験で進むべき道が見えた

きわめて快調なキャリアに見えるが、本人はけっして順風満帆と捉えていたわけではないようだ。

森谷 アメリカでは、評価が日本とほぼ180度逆転しました。日本ではどのオーディションも受ければ落ちる。批判される。METで歌った後も、それは変わりませんでした。

でも2010年からはリンツ州立劇場の専属にもなって、ヨーロッパではキャリアが伸びていった。その時に、自分を受け入れてくれるところを、しっかり見きわめていかなければと思ったんですね。日本ではご縁が続かず、7年間歌いませんでした。

「アメリカ留学で言われたのは、『ユニーク(独自)であれ』。アーティストとして存在すべき理由を持ちなさい、ということでした」

彼女が再び日本のオペラの舞台に立ったのは、2014年びわ湖ホールの《リゴレット》ジルダ、そして2015年東京二期会の《魔笛》夜の女王だった。

森谷 また違ったご縁をいただき始めた。《リゴレット》*と《魔笛》** はそれぞれ別のルートからいただいたお話でした。《魔笛》は、二期会さんが共同制作したリンツ州立劇場に、偶然私がいたんです。

そもそも私がリンツに行くことになったのもけっこう偶然です。たまたまウィーンに行った時に、近くのリンツの劇場からオーディションの話が来て。その当時のイギリスのマネージャーが「とりあえず行ってきて! 2日後だけど」みたいな感じでした(笑)。そのオーディションを受けていなかったらリンツにいなかったので、二期会の《魔笛》もなかった。人生、何がどうなるかわからないですよね。

これからどこに向かっていくのかまだわからないですけど、「彼女の生きざまだからこそ成し遂げられた」と思ってもらえるものがあるといいですね。

 

*《リゴレット》:ヴェルディの3幕のオペラ。16世紀、マントヴァ公爵の道化師リゴレットは、愛する娘ジルダを公爵に奪われたため、刺客に公爵の暗殺を頼むが、殺されたのは身代わりになったジルダであった。アリア《慕わしい人の名は》《女心の歌》などはとくに有名。

**《魔笛》:モーツァルトの2幕のオペラ。夜の女王から魔法の笛をもらって、その娘パミーナを救うためにザラストロの殿堂におもむいた旅の王子タミーノが、試練を乗りこえてパミーナを獲得するまでをえがく。序曲や《おいらは鳥刺し》、夜の女王のアリアなどは有名。